□キリリクetc

きっと来年も笑い会える
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 時刻は11時48分。そろそろ一年が、今年が終わる。

「歯を磨くぞ」
「えー…」
「えーじゃない。行くぞ」

 熱斗がしぶしぶリュックから歯磨きセットを取り出している間にお菓子類を簡単に片付ける。そのついでに、炎山はお世辞にも綺麗にたたんであるとは言えない熱斗の私服を綺麗にたたみ直した。
 ちらりと青いパジャマを纏っている熱斗を見る。つい先程社内にあるシャワー室で体を洗い流したわけだが、銭湯じゃあるまいし一緒に入ろうと言ってきた熱斗を説得するのに思ったより時間がかかってしまった。炎山としては年が明けるまでに全てをさっぱりさせたいのだ。
 全てを、さっぱりと。それは、この胸の中の気持ちも含めて。

「光、」
『あははは!ブルースおもしろーい!!次はさぁ』
『ロックマンっ!待っ』
「ははっ、やっぱりロックマンとブルースって仲良いな〜。楽しそう…あ、なんか言った炎山?」

 熱斗のその問いに炎山は緩く首を振り、洗面所へ行くように促した。改めて言うなら、過保護な青いナビの邪魔が入らないような場所が良い。
 洗面所に着き、炎山は自分の歯ブラシでこしゅこしゅと磨き始めたが、熱斗はかっちり固まってしまった。

「…どうした?」
「その…歯磨き粉はあるんだけど、歯ブラシ、が…」

 入ってない、と言う熱斗に炎山は手際よく備え付けてある棚から新品の歯ブラシを取り出すと、パリッとパッケージから取りだして簡単に歯磨き粉を付けて熱斗の口に押し込んだ。熱斗は、うぐっ、と声を漏らした後に歯ブラシを自分で握ると、ありふぁとう、とくぐもった声で言った。
 炎山はこれで身体的にはすっきりしたが、心はまだすっきりしない。

「光」

 ぱし、と部屋へ戻ろうとする熱斗の腕を衝動的に掴んでしまった。やはり言うなら今しかない、と炎山は意を決した。

「どうした炎山?」
「…光、好きだ」
「オレだって炎山のこと好きだよ」

 そう言う熱斗の声音はいつも通りで、何だか気が抜けてしまった。そもそも熱斗はちゃんとわかっているのか怪しいところでもある。

「ちゃんとわかっているのか?」
「…好きじゃなかったら泊まりにまでこないって」
「フッ…そうだな」
「ロックマンとブルース仲良くやってるかなー」

 その言葉に炎山は少しブルースに対して申しわけなく思った。今頃どうしていることか…。
 部屋に向かって歩いていると、不意に熱斗がぽつりと漏らした。

「ロックマンってさ、多分ブルースのこと好きなんだろうな」
「は!?」
「だって、いつも仲良くしてるしさ、それに、あいつブルースの話するとき楽しそうだもん」
「……そう、なのか」

 少し意外だと思いながらも部屋へ入り、炎山はブルースの悲鳴とロックマンの笑い声をBGMに時計を見ると、時刻は11時58分。
 今年に別れを告げる時はすぐそこまで来ている。この一年、本当に炎山はいろいろなことがあったと思いを巡らせる。

「光と過ごしたこの一年は、オレにとって…」
「ちょっと待った」

 ぺち、と熱斗は炎山の口を手で塞いだ。その行動に炎山は少なからず驚く。

「なんか、お別れみたいでやだ。来年もオレ達一緒なんだからさ。…まぁ、確かに炎山にいろいろと迷惑はかけたとは思うけど…」

 恥ずかしそうに頬をかくと、熱斗はふわりと笑った。
 カチリ、と時計の針が動く。

「あけましておめでとう。これからもよろしくな、炎山」
「…ああ、あけましておめでとう。……よろしくな、熱斗」
「っ!?な、まえ…」

 驚き、顔を真っ赤にする熱斗に炎山はフッと笑った。
 新しい年は、お前との関係もまた新しくなりそうだ。

─Fin─

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