ドクターX(cp)
□第8話 傷心
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加地「デーモン。助かったよ」
今日は例の特患の手術の日だった。再検査の画像にも大きな進行は見られず腹腔鏡で無事に手術を終えたのがお昼前の出来事。無事とはいえやはりギリギリのラインだったので助手が大門でなければ開腹に変更していただろう。それをせずに済んだのは的確なアドバイスと腕があったから。昔の自分なら患者のオーダーにも応えられ蛭間の評価も得られた安堵感しかなかっただろうが今は違う。安堵感よりも彼女に対する感謝の方が遥かに大きく手術室を出た彼女を追った。
未知子「助手でも失敗しないので」
振り返りいつもの決め台詞を口にする大門の表情はどこか和やかでそのまま一緒に食堂へと行ったのが数時間前。午後は互いに手術の予定もなくこのまま穏やかに一日が終わるものだと思っていたのにまさかあんな事になろうとはー。
未知子「だから早くしないと死んじゃうんだってば!」
蛭間「ちょっと静かにしてくれませんか」
院長室に大門が乗り込んだのは数分前の事。たまたま医局にあった検査結果を目にした大門が自分にやらせろと直談判に来たのだ。その一部始終を見ていた加地も仕方なく同行したがその表情はどこか困惑していた。
加地「デーモン。少し落ち着け」
未知子「アンタ達も医者なら分かるでしょ!もう時間がないの!」
加地「分かってるさ。手術適応外だって事がな」
紹介状を持って検査に来たのは確か先週だ。会社の健康診断で引っ掛かったとか何とか担当医から聞いたがその検査結果を見たときに誰もが思った"手術適応外"だと。進行に気付かず放置している人も居れば体調が悪くても検査を受けに来ない人も居て今回のように検査をして"末期"だというケースは少なくないのが現実。
蛭間「ハイリスクのあるオペはね。病院長として許可致しません」
未知子「何でよ!今ならまだ間に合うのに!」
蛭間「知ってますよ。貴女が失敗しない医者なのは」
未知子「なら何で!」
蛭間「病院にメリットがないからだよ」
これが特患ならどんなリスクがあっても生還させる事で得られるメリットがあるので許可しているが今回の患者は一般的病棟の人。いくら大門が失敗しないとはいえリスクがある手術は許可出来ない。
未知子「メリット…?なによそれ!そんなの関係ないでしょ!」
両手を机につき身を乗り出し声を荒げる大門に視線を向けた蛭間だがすぐにその横にいる加地へと視線を移した。
蛭間「加地君。この患者はいつ来られるんですか」
加地「…明日検査結果を聞きに来ると聞いてます」
蛭間「そうですか。なら大門君以外の誰かに担当して貰って下さいね」
未知子「何もしないで見捨てるっていうの!」
加地「デーモン!」
今にも飛び掛かりそうな大門の腕を掴み自分の方へと引き寄せようとするが頭に血が上っている大門の力は女とはいえ中々で仕方なくお腹側に腕を回し体全体の動きを制止させる。
蛭間「うっさいな!その患者に関わったらクビだからな!」
最初こそ穏やかな口調だったが大門の態度に当てられたのか喧嘩腰で反論してきた蛭間に怒りが収まらず言い返そうとしたが先に加地が口を開いた。
加地「落ち着けって!」
未知子「うるさい!離してよ!」
蛭間「早く出て行けよ。バーカ」
加地「失礼しました!」
未知子「絶対諦めないから!」
半ば強制的に院長室から出され加地に腕を引かれる形で廊下を歩く二人。その手を振りほどきたくても痛いぐらいに掴まれていて言葉が出てこなかった
加地「デーモン」
未知子「なによ」
加地「お前の気持ちは分からんでもない」
腕の良さは人一倍知っているし何とか出来るスキルを持ち合わせている事も知っている。だがここで必要なのはスキルではない。大門には理解出来ないだろうが患者の命よりも大事なものがあったりするだ。
未知子「だったら!」
加地「お前の腕を疑っている訳じゃないけどリスクが高すぎる」
未知子「大丈夫だから!お願い!」
加地「………医者は神じゃないだろ」
手術をさせる方法がない訳ではないがその後が問題だ。手術となれば助手には自分と原+多古。麻酔に城之内。その他オペ患が数名になるだろう。フリーランスである大門や城之内は例えクビになっても何も問題ないが他のメンバーはそうはいかない。自分はどうなっても構わないぐらいの腹は括っているし原にもそれに付き合って貰う。だが新入りの多古やオペ患の未来を潰すような事は出来ない。それを考えるのも一応"部長"としての役目だったりするからー。
未知子「……やっぱりアンタは医者じゃない」
もう少し食って掛かってくるかと思ったのにそう一言残しどこかに行ってしまった彼女の後ろ姿を見届けたあと仕事へと戻った
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