ドクターX(cp)

□第8話 傷心
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未知子「……」

加地「……」

晶が紹介所を出て数分。互いに立ち尽くしながら見つめ合うだけで言葉を発しない。先ほどの話をどこから聞いていたのか知らないが晶が仕掛けた事なら最初から居た可能性は高い。聞かれてマズイ話ではないが気恥ずかしさがあって言葉に出来ずにいると向こうから口を開いた

未知子「手術したら治せてた」

加地「…あぁ」

未知子「だから協力して欲しかった」

真っ直ぐな瞳で訴えかけてくる大門に心が締め付けられて言葉がでない。

未知子「助けたかった。助ける術だってあった」

加地「…あぁ」

何故かゆっくりと近付いてくる大門に反射的に後ずさる。それでもお構いなしに一歩一歩近付いてくる彼女に息を飲んだ。

未知子「医者は神じゃない…。分かってるよ。そんな事」

加地「………」

未知子「神じゃないけど…助ける事が出来るのも医者だけ。そうじゃないの?」

加地「…そうだな」

普段のようなテンションで問い詰められたのならまだ逃げ道はあったかもしれないがゆっくりと責めてくる大門に後退りながら答えるのが精一杯。

未知子「だから諦めたくないの。最後まで戦い続けたいの」

加地「あぁ」

ガタッという音がして振り返るとすぐ後ろにはガラス戸がありそれ以上はさがる事が出来ない。そんな加地に大門はグッと詰め寄り彼のシャツを握りしめた

未知子「見捨てたら終わりなの…今日みたいに死んじゃうの」

加地「……」

あまりにも弱々しい声で抱き締めたい衝動に駆られたがそんな資格自分にはない。だからこのまま大門の気が晴れるまで付き合おうと決心をしたのに一瞬にして崩れ去った。

未知子「私が見捨てたから……」

その言葉を聞いて思わずギュッと抱き締める。そしてそれと同時に自分がした発言を後悔した。

加地「違う。見捨てたのは俺だ。お前じゃない」

救えない悲しみを誰よりも知っている大門に"神じゃない"なんて最低だ。誰よりも努力をして助ける事だけを考えている彼女の心を踏みにじってしまった挙げ句"見捨てた"と言わせてしまうなんて本当に自分に腹が立つ。

加地「だから…頼むから気に病むのはやめてくれ。全部俺のせいだ」

責めてくれたらまだ気も楽なのに誰を責める訳でもなく自分のせいだと抱え込む。普段見せない彼女の優しさがそこに詰まっていて不覚にも愛しいと思ってしまった。

未知子「救えなかったのは全部自分のせいなの…」

一人で手術をしているとは思っていない。どんな手術でも必ず人の手を借りていて助ける事が出来るのは皆の力があってこそ。だから一人で戦っているとは思っていないが助けられなかった命は全部自分のせい。力不足だったという事だ。

加地「お前だけが最後まで戦った。それを阻止したのは俺だ。だから全部俺のせいだ」

悟られないようにしているが多分泣いている。それでも否定はしたいのか加地の肩におでこを付け首を横に振る。もう全てが愛しい。

加地「何度でも言うからな。お前のせいじゃない」

未知子「私のせい…」

加地「お前は誰よりも患者思いで優しい良い医者だ」

未知子「そんな事ない…」

加地「そんな事ある。世界中探してもお前みたいな良い医者はいない」

未知子「…言い過ぎ」

加地「言い過ぎじゃない。お前は世界で一番良い医者だ」

未知子「バカ…」

今までの経験からどこかで手術を出来ると思っていたので助けられなかった時は本当に落ち込んだ。加地だけは他の医者とは違うと思ってたからそれもプラスされて本当に腹が立ったのに晶との会話を聞いた時は嬉しかった。こんなにも理解してくれていたんだと。腹立たしさと嬉しさの両方の感情が混じり合いどうしたら良いか分からず思いのままに感情をぶつけたがその答えは本当に心地が良いもので離れるのが惜しい。

加地「…本当バカだよな。こんなにお前が好きなのに。泣かせるなんて最低だよ」

未知子「…泣いてないもん」

加地「"好き"をスルーするな」

未知子「だって知ってるもん」

加地「でも分かってない」

未知子「何が言いたいか全然分かんない」

埋(ウズ)めていた顔を上げ見つめてくる大門に少し眉を下げる。ヒールを履いている時の目線に慣れてしまっているせいか見上げられる目線が新鮮で色々と爆発してしまいそうだ。

加地「気付くまで待つつもりだけど。これでも本気だからな」

手を出すつもりなんて更々なかったのに今のシチュエーションで何もするなという方が無理がある。そっと頬に触れ優しく撫でなるとそのまま唇を重ね合わせた。

未知子「…待つって言ったじゃん」

加地「待つだけは性に合わねぇからな」

未知子「ズルい」

何故キスされたのかは分からないが嫌じゃない自分がそこにいて再び沸き上がった羞恥心。それを隠すように顔を背けると巻き付いていた腕に少しだけ力が込められた

加地「悪かった」

そろそろマネージャーが戻って来る頃だと思い一言告げると腕を解く。ゆっくりと離れた大門は俯いておりハッキリと表情は見えなかったがふと顔を上げた彼女は恥ずかしそうにそれでいて嬉しそうな笑みを浮かべてくれたので穏やかな空気が二人を包んだ。

晶「話は終わった…ってお邪魔だったかしら」

加地「良いタイミングですよ。俺帰るんで」

晶「またいつでもどうぞ」

聞かずとも二人を見ていればというか未知子を見ていれば何があったのかは察しがつく。加地を見送ってすぐに自室へと足を向けた未知子に小さな笑みをこぼしつつ晶も床へとついた






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