ドクターX(cp)

□第9話 思惑
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ただ目の前で大好きな手術をしている姿を見れるだけで良くてそれ以上は何も望んでいなかったのに。手を伸ばせばすぐ届く距離に彼女が居てつい触れてしまった。その感触は過去に触れた女性達とそう変わらないはずなのにふと鼻につく匂いも体全体で感じる温もりも頭から離れない。それどころか本能が"もっと"と求めている。人の欲望とは何て恐ろしいものなのだろうか。











博美「ここ良いですか」

お昼を少し過ぎた食堂で何やら考え込んでいる加地の元へと足を運んだ城之内は手にしていたお盆を机に置いた。

加地「お疲れさん」

顔を見なくても声で誰だか分かるので特に何のアクションもなく一言告げる。親しいといえば親しい間柄ではあるが"仲が良い"かと問われれば微妙な間柄。だが互いに嫌っている訳ではないので断る理由もない。それに彼女がわざわざ自分の元に来る理由は一つだけだ。

博美「何かありました?大門さんと」

加地「その質問に答えるには色々とややこしい事情があるんだけどな」

肯定こそしていないが今更隠す事でもない。むしろ聞きたい事があるぐらいなのでふと顔を上げた。形だけでも否定してくるかと思っていたのに返ってきた言葉は予想と違っていて。驚いたように少し目を見開いたがすぐにニコリと微笑んだ。

博美「聞きますよ。何でも」

加地「お前。アイツから俺を見ていた理由聞いただろ」

博美「えぇ。加地先生も聞いたんですか?」

加地「あぁ。もう俺は驚きを通り越して呆れたよ」

博美「同感です。加地先生が不憫過ぎて返す言葉もなかったです」

"恋心"を自覚する瞬間なんて人それぞれで模範になる答えなどはどこにも無いがあの状況で気付かないのは世界中を探してもそう居ないだろう。

加地「俺も自分でそう思ったよ。コミュニケーション能力だけじゃなくて恋愛の方も駄目なんてな…」

博美「大門さん海外生活も長いから、そうゆうのは得意な方だと私も思ってました」

あんな態度だが気を許した相手には心を開き甘えたりする。実際、加地にはそうゆう一面を見せているし何といっても見た目が良い。世の男性が放っておかないだろう。だから多少でも"恋愛経験"というものはあるものだと思っていたのに。

加地「普段の生活でもそうだけど曖昧な言い方だと理解しないだろ。アイツ」

博美「…まさか伝えたんですか?」

全ての事に対して真っ直ぐな考えを持つ大門には回りくどい言い方をしても何も伝わらない。ストレートにぶつけなければこちらの意思を汲み取ってくれないのだ。

加地「あぁ。どう出るかはともかく。反応が見たくてな」

博美「こうゆう言い方あれですけど何か凄い嫌な予感が…」

ストレートに伝える=告白をした。そう解釈したのだが良い方向に転んだのなら今こんな事にはなっていないはず。もう聞かなくても答えは導き出されたが一応答えを求めようと目線で訴えると加地は小さく笑った。

加地「アイツになーー」

こうゆう"恋愛"の話を年下の女性にするのもどうかと思ったが大門の事を唯一良く知っている人物で尚且つ同じバツイチ同士。話す相手には申し分がなく今置かれている状況を説明した。

博美「……もう言葉も出ないですよ」

加地「だろ。そこそこ色んな女と付き合ってきたが自ら追うような事はした事ないし、ましてや恋敵が女だなんて初めての経験だよ」

博美「変な言い方しないで下さい」

加地「でもあながち間違いじゃないだろ。もう俺はお手上げだよ」

彼の置かれている状況からしてそう思ってしまうのは自然な事かもしれないがその表情は穏やかでまだ何かあるような気がしてならない。

博美「本題はそれじゃないですよね?」

加地「さすが城之内だな。察しが良くて助かるよ」

ここまでの話はただの序章で本題は成り行きでキスをしてしまった紹介所での出来事の方。あの時の大門の返事に違和感を覚えていたのだ。

加地「成り行きでキスしたんだがその時の事がちょっと引っ掛かってな」

博美「…意外とテンポ良く進んでるんですね」

恋愛音痴な大門相手に良くそこまで持ち込んだなと感心してしまったがそこは女慣れしている加地の腕の良さなのか。

加地「色々あったんだよ」

"色々"と言われると気になってしまうが男女関係においての"色々"には深く追求するものではない。自分もそうだが触れられたく無い事の一つや二つはあるだろうと聞き流しておく事にした







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