ドクターX(cp)

□第10話 想望
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想望(ソウボウ)→思い慕う。待ち望む




















原「加地先生。今日何かあるんですか?」

加地「なんだよ。その質問」

原「えぇー。だって何か急いでますよね?」

いつものように無駄に騒がしい医局の自分の席で書類をまとめている加地の元へと足を向けた原はコーヒーを置く。"部長"だけど親しみやすい加地は若手からも好かれており普段ならその輪の中心に居るのに今日はずっと自分のデスクに座っている。

加地「普通だろ。お前らが騒ぎ過ぎなんだよ」

原「加地先生だっていつもあの中に居るじゃないですか」

加地「コミュニケーション取るのも仕事のうちだからな」

自分が若手だった頃は上司や先輩のご機嫌取りが一番の仕事だったが今は時代が変わってしまい医者が"勝ち組"と呼ばれる事はない。昔より医療ミスなどの訴訟も増えており医者を目指す若者がグッと減っているのが現実だ。そんなリスクを理解しつつも医者になりたいと思ってくれる若手はとても貴重な人材。そしてその指導も自分の仕事の一つである。

加地「傲慢な態度で上から目線だと若手はついてこないし今の時代だとパワハラで逆に訴えられるからな」

自分の仕事をこなしつつ大門に面倒事を押し付けられる日々の中での"指導"は正直疲れるし面倒だったりするが例え"研修医"や"新人"であってもミスを許される仕事ではない。故に厳しい口調になる事もあるがそれはそれで色々とあったりする時代。だから普段は出来るだけ穏やかで話し掛けやすい人柄でいようと心掛けていたりする。

原「若手の指導にも頭を悩ませますよね」

加地「そうだな」

そう返事を返したものの原には今の指導方針が合っているのではとも思っている。ちゃんとしたアドバイスが出来るよりも今の指導で大切なのは若手の意見に耳を傾けてあげられるかどうかが一番大事だから。優しさを持ち合わせている原には向いている。

原「なんで大門先生はあんな態度で訴えられないんですかね!?」

患者に接する態度が悪くても"失敗"さえしなければ多くの患者は納得する。だから医療ミスで訴えられる事がないのは不思議ではないが自分も含め医局員に対する態度は正直アウトだと思っている。付き合いが長いので自分はもう気にしないが人間の心はそう強くない。

加地「デーモンだからだろ。人間界のルールが通用しなくてもおかしくない」

原「…それってどこまで本気なんですか?」

相変わらず二人の間には割って入れない空気感がありいまだ関係性を疑っているのだが何気無い会話で飛び出す"デーモン否定"。ふと何か意味があるのだろうかと思ってしまった。

加地「どうゆう意味だよ」

原「仲が良いのにそうやってすぐけなすじゃないですか。だからどっちが本心なのかと」

風邪を引いた大門を心配していたり文句を言いながらでも最終的には肩を持ち院長に頭を下げたり。大門は知らないが彼女の無茶ぶりの裏で加地は結構動いていたりするのだ。なのに今のようにすぐに罵ったりもする。最初こそは照れ隠しなのかとも思ったがそうゆう雰囲気でもない。

加地「仲が良く見えてるのはお前だけ。昔から何も変わってねぇよ」

原「加地先生ってすごいナチュラルに嘘つきますよね」

加地「何だよ急に」

原「実際のお二人がどんな関係なのかは分からないですけど"変わってない"は明らかな嘘じゃないですか」

加地「ならもうそれで良いからさっさと仕事に戻れ」

確かに"変わってない"は嘘だ。だがどちらも本音だったりする。横暴だし自分勝手だけどそれはいつだって"患者"の為。でもそこまでするのは私利私欲の為にしか動かない組織だと分かっているから。自分の評価などは気にせず突っ走っていく大門を手助けしたいと思っている反面。暴走し過ぎる彼女にブレーキを掛けさせるのはとても大変でつい文句が出てしまう。ただけれだけの事。

原「最近すごい冷たいです!僕のこと嫌いですか!?」

加地「そうゆうところ本当鬱陶しいな」

腕はともかく憎めないキャラなのでついフォローしてしまうが好きとか嫌いとかじゃなく只の後輩。だが最近は大門の事で手一杯で適当にあしらっていたのも否定はしない。

原「僕はこんなはにも加地先生を慕っているのに…」

肩を落とし自分のデスク戻る原を横目にチラリと時計へと視線を向けた。定時で上がるのは厳しいかもしれないがそこそこ早くは上がれそうだと予想した加地は小さく笑う。そう今日は大門と食事に行く日。向こうはただ一緒に食事をするだけだと思っているだろうが加地としては今までの関係性から先に進みたいと思っている。だから少しでも早く仕事を切り上げたかった。






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