ドクターX(cp)
□第18話 宿敵
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ー翌日ー
博美「ン…」
自然と目が覚めた博美は遠慮がちに体を動かし近くにあった目覚まし時計を手に取った。
博美「嘘…。もうお昼じゃん」
女性特有の現象とでもいうべきか。話が尽きる事はなく眠ったのは朝方だ。決して寝過ぎではないが久々にこんな時間まで眠ってしまったのでつい出てしまった言葉。ふと隣に視線を向けると穏やかな表情で眠っている未知子が居て少し胸を撫で下ろした。
博美「ちょっとごめんね…」
時々だが舞と寝ていた事もありシングルより少し大きめのセミダブルのベッド。子供となら余裕があるが大人が二人横になれば余裕などはない。起こさないようにゆっくりと布団から抜け出すと寝室を後にした。気軽な独り身生活とはいえ主婦感覚は抜けきれずキッチン回りを掃除したり溜まっていた洗濯物を畳んだりしていると不意に届いた機械音。
ブー ブー ブー ブー ブー
ソファーの前に置かれていたテーブルで揺れるスマホ。それは家に着いてすぐに充電器に繋がれた未知子の物。気が付いたとはいえ本人は寝ているので放っておくつもりだったのに表示されている文字を見てつい手を伸ばしてしまった。
博美「お疲れ様です。加地先生」
加地「…何でお前が出るんだよ」
電話口から聞こえる加地の声は呆れてはいるが驚いた様子はなく引っ掛かりを感じた。
博美「私と一緒に居る事知ってたんですか?」
加地「あぁ。さっき紹介所に行ったら神原さんに言われたんだよ。お前ん家に行ったってな」
博美「随分と早いお迎えですね」
地方で羽目を外すほど飲むとは思っていなかったが男の飲み会だ。そこそこの時間までは飲んでいるだろうと思いお迎えは夕方過ぎになると踏んでいたのに。随分と早いご帰還にクスッと笑う。
加地「食べ物の恨みは怖いからな」
博美「それは否定しません。どうします?来るなら起こしておきますよ」
加地「行くも何もお前ん家知らないからな。また出直すよ」
博美「晶さんに聞いたんじゃないんですか?」
加地「聞いたのはお前と一緒に居るって事だけだよ」
付き合いが長いといえど個人情報の取り扱いに厳しい今の時代。気軽に聞いたり出来ない。それも相手は異性。教えて貰うのも気が引けるので聞いていないのだ。
博美「今来たら可愛い寝顔が見れるのに」
軽い感じで接してくるのにそうゆう所は真面目で。人の上に立つ事が出来る人柄だなと妙に納得してしまった。
加地「これから沢山見れるからな。わざわざ行く必要ねぇよ」
寝顔に関わらず彼女の色んな表情をこれからは沢山見れるし見ていきたいと思っている。
博美「それもそうですね。でも起きた時に加地先生が居ると喜ぶと思いますよ」
照れ隠しなのか強がっていただけなのか。あの話以降。彼女が"会いたい"と口にする事はなかったが時おり見せていた寂しげな瞳。それがずっと気になっていた。どんな理由であれ彼女を気に掛け早く戻ってきたのは事実だろう。ならば早く会いに来てやって欲しい。
加地「………ハァ」
電話越しから聞こえてきた小さな溜め息。顔は見えないがその表情が手に取るように分かってクスクスと笑いながら言葉を掛けた。
博美「後で連絡入れますね。部屋番号付きで」
加地「…了解」
会いたいのは自分も同じなので迎えに出る分には構わないが今の言い方からすると部屋まで上がって来いという事だ。さすがに気が引けるので断りたいがそれが言える雰囲気でもなくしぶしぶ了承すると電話を切り博美のマンションへと車を走らせた。
ピンポーン
博美「どうぞ」
モニターに写し出された人物を見てエントランスの施錠を解除すると一言告げる。特に何のアクションもなくモニターから消えた彼を見て小さく笑いながら玄関へと足を向けた。
博美「お疲れ様です。上がって下さい」
加地「ここで良い。これ届けにきただけだから。じゃあな。車で待ってるって伝えといてくれ」
彼女が泊まっていた事を知ったのは先程だが昨日の電話の様子からして迷惑を掛けているだろうと思い用意していた手土産。それを手渡すと玄関のドアへと手を掛けた。
博美「そんなに嫌ですか?」
加地「当たり前だろ。お前ん家なんて居心地悪すぎる」
博美「良いじゃないですか。二人っきりじゃないんだから」
腐れ縁とはいえ真面目な彼の事だ。異性の家に上がり込むのが嫌なのだろう。だが二人きりではない。気にし過ぎだろう。
加地「聞きたいことがあるならここでも良いだろ」
博美「さすが加地先生。って言いたいところですけど単純に話したいだけですよ」
加地「何をだよ」
博美「色々です」
加地「…少しだけだからな」
"色々"とは言っているがどう考えても仕事関連の話ではない。そうなると答えは一つしかないのだが今さら何を聞きたいというのだろうか。
博美「分かってますよ」
未知子にも甘いが結局最後に折れてくれるのは彼の優しさだなとニコリと微笑むと加地をリビングへと通した。
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