ドクターX(cp)短編

□ベンケーシーの秘密
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加地「なぁ」

未知子「何?アンタの声って無駄に響くんだけど」

加地「無駄って何だよ。失礼な奴だな」

未知子「あぁー!もう!頭に響くから話し掛けるな」

先程の手術で頭を使いすぎたのか。些細な音ですら頭に響いてイライラが止まらない。誰かに八つ当たりでもしなければやってられなくて。偶然居合わせた彼にイライラをぶつけてしまった。

加地「何の八つ当たりだよ!」

別に用があって話し掛けた訳ではないが不機嫌にさせるような事をした覚えはない。いつにも増して自分勝手な未知子につい声が大きくなるが華麗にスルーされてしまったので仕方無く医局へと戻った。



















未知子「終了」

博美「お疲れ様」

未知子「お疲れ」

本日最後の手術も無事に終わり患者の胸に手を置いた未知子は声がした方へと視線を向けた。

博美「大丈夫?何か顔色悪いけど」

未知子「ずっと頭痛くて。何でかな」

患者の側で様態を確認している博美から離れ扉の外へと出た未知子は身に付けているものを脱ぎ捨てごみ箱へと投げ捨てる。扉の近くに居るため閉まることはなく開きっぱなしの扉。互いに視線を交わしながら話をしていたのだが未知子の言葉に博美は手を止めた。

博美「ねぇ。それって風邪じゃないの?舞も昨日から熱出して今日は晶さんに預けてきてるのよ」

未知子「…風邪か。通りでしんどいと思ったよ」

博美「何で気付かないのか凄い疑問だけど。まぁお大事に」

未知子「舞もお大事にねー」

博美「ありがとう」

片手を上げ去って行く後ろ姿を見ながら娘の舞に続き未知子の看病もしなければならない晶に若干申し訳なさを感じ言葉とは裏腹に眉を潜めた博美。だが一刻も早く舞の元へと行きたかったので素早く仕事を済ませ手術室を後にした。

未知子「風邪なので帰りまーす」

就業時刻までは後一時間余りあるが緊急オペがない限りもう自分の仕事はない。手術室から真っ直ぐ医局へと戻ってきた未知子は何の躊躇いもなく白衣を脱ぎ捨てると医局に居る人達に声を掛けた。

原「えっ!?風邪って大門先生がですか?」

未知子「それ以外誰が居るのよ」

加地「デーモン。嘘つくならもっとマシな嘘付けよ。悪魔が風邪なんか引く訳ねぇだろ」

未知子「うるさいな。頭に響くって言ったでしょ」

加地「計って証明して見せろ」

悪魔だと思っている部分もあるが一応人間だとは理解している。だから風邪を引くのは不思議ではないが見た目はとても元気そうで信憑性が薄い。医局に常備してある体温計を手にした加地は未知子の額へとそれをかざしたのだが瞬時に表示された数字を見て呆気に取られてしまった。

加地「マジかよ」

未知子「何度?」

博美に言われるまで熱がある事にも気付かなかったので当然まだ測ってはいない。だけど怠さの感じからしてそう高くは無いと踏んでいたのだが彼の表情を見てつい聞き返してしまった。

加地「39度近くあるぞ」

原「えっ!?」

未知子「えぇー。最悪じゃん」

予想よりも随分と高い体温に近くにあった机に軽く腰を掛けた未知子は小さく息を吐いた。頭が痛いなと感じる程度で他には何の症状も無かったのに。体温を自覚した途端に一気に押し寄せてきた怠さに思わず表情を曇らせた。

原「そんな事言ってる場合じゃないですよ。内科に寄ってから帰ったらどうですか」

加地「そうしろ。ってかお前どうやって帰るつもりだよ」

未知子「どうって。歩いて来たから歩いて帰るしかないでしょ」

加地「…ハァ」

確かにそうなのだが。こういう時ぐらいマネージャーに連絡するとかタクシーで帰るとか色々と手はあるだろう。金欠なのは知っているがそれぐらいのお金ならいくらでも貸すというのに。

加地「とりあえず内科行くぞ」

未知子「一人で良いよ」

加地「途中で倒れられたら後味悪いだろ」

何故そんなに元気なのか些か疑問だが熱に強い人だって世の中には沢山居たりするのでさほど気にする事ではない。とはいえ高熱の部類。急に意識を手放す可能性だって充分にあり得る事だ。

未知子「意外と心配性なんだ」

加地「そうだよ。何だったら車イスにでも乗るか」

冗談っぽく聞いてはみたが結構本気で思っていたりする。だがやはりお馴染みのあの台詞が返ってきた。

未知子「致しません」

加地「あぁそう。話し通してくるから待ってろ」

外科では未知子の名は知れているが他の科で彼女を知っている人は極僅か。ネームプレイトを見せれば彼女がここで働いている医者だとは分かるが正規の医局員である自分はどこの科でも顔パスだ。元気そうに見えるとはいえ。あまり体力を消耗させたくないので自分の立場をフルに活用した。

加地「ほら。早く行け」

未知子「はーい」

そんな彼の気遣いを知ってか知らずか。呑気に返事をしながら診察室へと入って行った未知子に小さな溜め息をこぼした加地はその場で出てくるのを待った。

















未知子「頼んでないけど。色々ありがとう」

診察から薬を貰うまで。一切無駄な時間がなく数十分足らずで全ての事が終了したのでそのまま正面玄関へと足を向けた。

加地「礼ぐらい素直に言え。まぁ只の風邪で良かったな。ゆっくり休め」

未知子「そうする。じゃあね」

加地「待て」

未知子「なに」

加地「これでタクシーに乗れ」

未知子「大丈…」

加地「絶対に乗れよ。良いな」

さすがにそこまでして貰うのも気が引けるし理由もない。だから差し出された諭吉を拒否したかったのに。手を取り握らすような形で手渡されてしまったので受け取る以外の選択肢がなく。渋々受け取った未知子は正面玄関の前に停まっていたタクシーに乗り込み紹介所へと帰って行った。






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