ドクターX(cp)短編

□きっとこれは…
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未知子「術式変更」

手術室に響いたのはいつもと変わらない凛とした彼女の声。そして発せられた言葉もまたいつもと変わらないものだった。

加地「またかよ」

未知子「うるさい」

加地「文句ぐらい言わせろ」

未知子「言う暇があったら手を動かして」

"術式変更"そう述べる度に手術室がざわつくのはどこの病院でも同じ事でその度に募る苛立ち。だけど彼だけは違った。人一倍文句は多いけれど自分が望んでいるフォローをしてくれる。それが今まで出会ってきた人達と大きく違うところだ。

加地「どんだけ人使い荒いんだよ」

そう思いつつも彼女の望んでいるように動いてしまう自分がいる。何故かと問われると返答に困ってしまうが少なくても彼女の腕は本物だ。例え人使いが荒くても医者として彼女を尊敬している。ただそれだけの事。絶対口にはしないがー。

未知子「口も動かしといて良いから。早くして」

手術室で響く声のほとんどが不平不満で耳障りな事が多いのに。同じ不平不満でも彼の声だけは不思議と嫌ではない。何故かと問われると返答に困ってしまうが少なくてもその腕だけは認めている。ただそれだけの事。すぐ調子に乗るので絶対言葉にしないがー。





















未知子「加地ちゃーん」

大して離れている訳でもないのに自分を呼ぶ声は無駄に大きくて。近くに居る人達の視線が自然と自分の方へと集まる。その居心地の悪さに眉を潜めながら振り返るとその原因を作った本人は自分とは対照的な笑顔を向けて近付いてきた。

加地「お前な。無駄に声がでかいんだよ。そろそろ自覚持て」

未知子「そんな事より!お昼一緒に行こうよ」

加地「なんで」

未知子「良いじゃん別に」

加地「良くねぇよ」

未知子「ほら。行くよー」

加地「人の話しは聞け」

未知子「聞いてまーす。何食べる?」

加地「全然聞いてねぇだろ」

未知子「私は海老天付きのうどんが良いなー」

加地「…俺はカツ丼だな」

その返答に未知子はニコリと微笑み食堂へと足を向けた。彼が嫌がっているのは知っている。だけど最後は折れてくれるのも知っている。本当に嫌なら放っておけば良いのに何故か彼はいつも折れてくれる。多分それは彼が女性に優しいからだ。

未知子「それも良いね!少し貰おうかな」

加地「やらねぇよ」

未知子「ケチー」

加地「どうでも良いけど。海老天付ける金あるのかよ」

未知子「そこはほら。加地ちゃんの優しさで」

加地「そんな優しさございません」

未知子「ございます。加地先生は優しいので」

加地「ったく。しゃねぇな」

患者と向き合っている時の彼女はとても凛々しくその姿は息を呑むほどだ。なのに仕事モードが解除された途端見せる"素"の姿。その姿に女性らしさなんて欠片もないのに。つい乗せられてしまう。多分それは相手が悪魔でも女性には優しくするというのが自分のモットーだからだろう。





















未知子「ねぇ」

加地「何だよ」

未知子「呼んだだけ」

加地「何だよそれ」

未知子「そこに居たから」

加地「意味分かんねぇよ」

彼女の就業時刻まで残り僅か。暇を持て余していたのか自分のデスクで知恵の輪を解いていた彼女からの問い掛け。だけどそれは何の意味もないもの。なのに妙に心地よくてフッと頬を緩ませた。それ以降。彼女からは何のアクションもなく静まり返っていたが不意に加地は声を掛けた。

加地「なぁ」

未知子「なに」

加地「呼んでみただけだ」

未知子「何それ」

加地「そこに居たからな」

未知子「真似しないでよね」

いつもと変わらず自分のデスクで忙しなく書類整理に追われている彼。そんな彼からの問い掛けは何の意味もないもので。普通なら苛立ちが沸き上がるような事なのに何故か妙に心地よい。だからだろうか。それ以上言葉を続ける事が出来ない。その空気感に呑み込まれながらも互いに同じ事を思っていた。















心が温まったとしても















決してこれは恋ではない。


















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