ドクターX(cp)

□第2話 苦悩
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多古「大門先生。お疲れ様でした」

未知子「お疲れ」

いつもと変わらず無愛想な返事だがその後ろ姿は妙に機嫌が良い。それを突っ込める立場ではないので大人しく見届けたがやはり気になってしまう。

多古「原先生。大門先生何か機嫌良いですよね?」

原「ん?まぁいつもよりかは穏やかだね。それより加地先生」

加地「なんだよ」

原「僕は今日とても感動しました!」

加地「何にだよ」

原「オペにですよ。大門先生と凄い息ピッタリで!」

多古「それ僕も思いました!本当に凄かったです」

原とは長い付き合いで時折鬱陶しいと感じる時があったが。多古もまた、まとわりついてくる感じが子犬のよう少々鬱陶しい。

原「何であんなに大門先生の考えが分かったんですか?」

今さら術式変更ぐらいで驚いたりしないがやはり説明は必要だ。だから大抵は大門が細かく指示を出し助手である自分達がそれを実行するというスタンスだったのに。今日の加地はまるで大門が考えている事が全て分かっているかのようで指示がなくても大門のフォローへと入っており正しく阿吽の呼吸というやつだった。

加地「色々あったんだよ。もう一件オペがあるからお先」

不服そうな二人の声を背に次の手術に備え一度医局へと足を向ける。

始めこそ彼女の事を"天才"なのではないかと頭の片隅にあったが今日の手術でそうではないと思い知らされた。勿論、生まれ持った"才能"はあったかもしれないが失敗しない裏にある並々ならね努力。きっと彼女は例のノートを書きながら患者にとってどの方法がベストなのか何度も繰り返しシミュレーションし何十パターンという術式を頭に入れているのだろう。
突然の術式変更はこちらとしてはリスクがあるものと認識しているが彼女にとってはそうでない。それが患者にとっての一番良い方法だと思っているからこその決断だ。

加地「…ハァ」

彼女の腕の良さに今更"嫉妬"というものはないが何て言うか医者としての"格差"のようなものを見せ付けられた気がして自然ともれる小さな溜め息。暫く立ち直れそうもないが患者は待ってくれない。医局で少し頭を冷やしてから加地は次の手術へと向かった




















未知子「加地ちゃーん!」

加地「だから声がでか…ってなんだよ!」

あの手術の後から大門を避けていた事もあり日中、会う事は無かったが知らぬ間に彼女の就業時間は終了していたようで白衣を身につけてない彼女。少し前の彼女なら誰に構うこと無く病院を後にしていたというのに何故自分に飛び付いてきたのか。

未知子「ありがとうー。」

加地「何が」

好意を抱いている異性が胸に飛び込んでくるというシチュエーションはとても魅力的だが素直に喜べないのは彼女が無駄に機嫌が良いからだろうか。

未知子「加地ちゃんのおかげで凄い良いオペが出来た。本当ありがとね」

理想の手術をするには自分の意思を汲み取ってくれて先読みしながらフォローしてくる相手が必要だ。だがそんな相手にはそうそう出会えない。だから基本的に邪魔にならない相手を指名してきたが数年前に出会った腕の良い医者。それが目の前に居る加地だ。
暴言も多くぶつかる事も多いがどんな無茶振りにも対応してくれる頼れる相手。そう思ってるからこそ助手を頼んでいるのだがあの打ち合わせだけでこんな完璧な手術が出来るなんて思ってもみなかった

未知子「こんな理想通りのオペが出来たのは初めて」

まるで愛しい人にでも抱きつくかのように首元に顔を埋め呟く大門に思わず抱き締めかえしたくなったが僅かな理性がそれを止める。力一杯抱き締めたい衝動を抑え片手だけを腰へと回した

加地「お前もやっと俺の凄さが分かったか」

いつ誰が通るか分からないこの場所で体を密着させている場合ではないが少しでも長く腕の中におさめておきたいと思ってしまいいつもように突っ掛かる

未知子「そんな事ずっと前から知ってるよ」

こちらが軽口を叩けば必ずそれに乗っかってくる。そうすれば適当な会話で話しに終止符を打てると踏んで仕掛けたのにまさかの言葉が返ってきて面食らってしまった。

未知子「また二人きりのカンファレンスしようね」

体を離し満面の笑みを浮かべると颯爽とその場から姿を消した大門。そんな彼女を呼び止める余裕もなく思考回路が停止したまま加地もその場を後にした。







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