ドクターX(cp)短編

□ベンケーシーの秘密
2ページ/4ページ

ーコンコンー

加地「こんばんは」

晶「あら。加地先生。丁度良いところに来てくれましたね」

加地「…失礼しました」

ここは"名医紹介所"であって家主を筆頭に全員が医者だ。何も心配する事はないと思いつつもどうも気になってしまって。早く上がれた事もあり仕事終わりに足を運んだのだが妙にテンションの高い家主を不審に思いつい出てしまった言葉。

晶「そんな事仰らずに。早く上がって下さい」

加地「…お邪魔します」

半ば強引に上げられ仕方無く雀卓の椅子へと腰を掛けると奥へと引っ込んで行った晶を不思議に思いながらも辺りを見渡す。ここに姿がない所を見れば自室で寝ているのだろう。だがそれだと来た意味はあまりないなと小さな溜め息をついた。晶が居るとはいえさすがに部屋には上がり込めないから。

晶「加地先生。未知子を頼みますね。私はちょっと出掛けて来ますので」

加地「ちょっとって何ですか」

晶「元々コンサートに行く予定だったんですよ。只の風邪みたいだし一人にしとくつもりだったんですけどね」

加地「"けど"何ですか」

晶「さっき様子見に行ったら40度近くて」

さすがに一人で置いていける状態では無いのでコンサートは諦めていたのだがそこに加地がやって来たのだ。

加地「城之内を呼べば良いじゃないですか」

晶「舞ちゃんも風邪なんです。昼間は私が預かってたんですよ」

加地「…なるほど」

晶「では宜しくお願いしますね。ついでにベンケーシーも頼みましたよ」

身支度を整えた晶は足早に紹介所を出て行くと呼び寄せていたタクシーに乗り込み目的地へと向かった。反論出来ないまま出て行かれてしまったので帰るに帰れなくなった加地は少し大きめな溜め息をつく。するとそれに応えるかのように側に居たベンケーシーが鳴いた。

ケーシー「ニャー」

加地「そういえば。お前と二人きりっていうのは初めてだな」

ケーシー「ニャー」

加地「正直あんまり好きじゃないんだよな。お前の事」

動物が苦手とか猫が苦手とかではなく。飼い主に似ると良く聞くように目の前に居る猫は彼に似ている気がしてどうも苦手だ。どんな時も動じず全てを見透かしているようなところがそっくり過ぎる。

加地「お前はあのマネージャーに似すぎだ」

ケーシー「ニャー」

加地「そんな事ないって言いたいのか」

ケーシー「ニャー」

加地「そんな事あるんだよ。お前もデーモンも愛されてるな。羨ましいよ」

病院では一匹狼だがここに居る時の彼女は全く違う表情を見せる。いつもとても楽しそうで時おり甘えるかのように晶や博美へとすり寄っている姿は小さな子供のようだ。そのギャップを見たさに足を運んでいたりする。さすがにもう自分の気持ちに気付いているがどうこうするつもり等はない。今のところ全くといって良いほど相手にされていないから。

ケーシー「ニャー」

加地「やっぱりお前は飼い主にそっくりだ」

普段は寄り付きもしないのにふと視線を落とした自分に何か違和感を感じ取ったのか。珍しく足元へとすり寄って来たベンケーシーを抱き上げると膝へと乗せた。

加地「すり寄って来られるとお前でも可愛く見えるな」

そしてそれは彼女にも言える事だったりする。素っ気ない態度であしらわれる事が多いが都合が良いときだけすり寄ってきて人の心を乱していく。本当良い迷惑だなと思いつつも自然と頬は緩んでいて小さく微笑んでいると指先に感じたザラザラした感触。

加地「ツンデレかよ」

飼い主は晶だがそういうところは長年一緒に居る未知子に似たのだろうか。そう思うと無性に愛しく感じてしまってベンケーシーの首もとを撫でていると。ガタッという音と共に何処からともなく未知子が姿を現した。

未知子「晶さーん…。もうダメ…」

自力で歩いてはいるがその足取りは頼りなく雀卓の前へと来た未知子は腰を下ろすと上半身を倒し雀卓へとへばりつく。

加地「おい。デーモン」

未知子「…あれ。加地ちゃんの声がする。幻聴?」

閉じていた瞳は何とか開けれたが一度倒した頭はそう簡単には上げられず姿は確認出来ない。やはり幻聴なのかと再び瞳を閉じようとしたらふと何かが額に当てられた。

加地「幻聴じゃねぇよ。それよりどうした」

正確な体温は分からないが手から伝わる熱は通常よりも遥かに熱い。先程晶が言っていたぐらいの熱はありそうだ。

未知子「お腹空いた…」

加地「食欲だけは衰えないんだな」

良い事ではあるが普通なら起き上がってくるだけでも大変だろう。現に彼女も辛そうにしている。それでも食欲の方が勝るとは何とも彼女らしい。

加地「ちょっと待ってろ」

ベンケーシーを降ろし台所へと足を向けた加地は冷蔵庫を確認する。昼間病人を預かっていただけの事はあり未知子が食べれそうな物も揃っていたので簡単に出来るうどんを手にすると。ついでに自分も何か食べようと辺りを見渡した。勝手な事をして悪いとは思うがこれぐらいは許されるだろう。数種類の野菜と卵。自分用のインスタントラーメンを準備すると手際よく調理を始めた。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ