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□待ち合わせ
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「遅い」
休日。今日は、大好きな彼氏のブンちゃんとデートでわたしの家まで迎えに来てくれたんだけど…わたしがちょっと(ほんとちょっとだよ!)出てくるのが遅くてご機嫌斜めになってしまった。
「ご、ごめんね」
家から出ると不機嫌のオーラをまとったブンちゃんが立っていて、それを見たわたしはおろおろとするばかり。
「ほんとごめんね」
歩き出したブンちゃんの後ろを急いでついて行く。ブンちゃんが怒るのも無理ないかも…毎回遅れてるような気がする。デートに遅刻するような彼女なんていやだよね…愛想つかされちゃったかな…
「ブンちゃん…ごめんね」
そう呟くと、くるりとわたしのほうに向きを変えたブンちゃんは大きなため息をついた。
「なんで遅れたんだよ…」
「え、えっと…ブンちゃんに…可愛いって言ってもらいたくて…でも、なかなかうまくいかなくて…」
いつもより入念にしたメイク、なかなか思うように出来ない髪型。ブンちゃんに可愛いって思ってもらいたくて頑張っていたら、いつも約束の時間を過ぎてしまうのだ。
「…ばーか」
額をこつんとこずかれた。わたしは、ブンちゃんのその行動の一つ一つにドキドキさせられる。
「だ、だって…」
「そんなこと考えなくてもいーんだよ」
少し頬を赤くしてそう言ったブンちゃんを見ると、「見てくんな」とぐいっと頭を明後日の方向に向かされた。ちょっと痛い…
「あゆみが遅刻しないよーにしつけねぇとな」
「しつけ?」
ニヤっと笑ったブンちゃんはなにかを企んでいるような顔をしてて、わたしは少したじろいだ。
「今ここでキスしろい」
その言葉を理解するのに数秒かかった。家からは数メートルしか離れてなくて、しかもこんな道端でブンちゃんにキス?かかかっと顔が熱くなる。
「む、むりだよ!」
「へー、俺に逆らうの?」
「だ、だって…こんなところで…」
「あゆみ、お前に拒否権なんかねぇんだよ」
意地悪な笑みを浮かべるブンちゃんは、本気だ。たしかに、遅刻したわたしが悪かったけど…こんなのひどいよ…
「できねぇの?ふーん、もう別れる?」
「い、いやっ!」
「じゃあ、するしかねぇよな?」
ブンちゃんは、ずいっと顔をわたしに近づける。恥ずかしいし誰かに見られはしないかと心配しながら、わたしはブンちゃんにキスをした。急いで離れようとした瞬間、後頭部をブンちゃんの手が回ってわたしの頭を自分のほうに引き戻した。必然的に再び重なる唇に、突然のことに呆然とするわたし。
「んんっ!やっ…」
力いっぱいブンちゃんの胸を押して逃れようとするが、びくともしない。ブンちゃんはというと、遠慮なくわたしの口内に舌を這わす。やっと唇が離れると、わたしは大きく息をした。涙が零れそうなのを我慢するのに一生懸命なわたしと、それを楽しそうに見るブンちゃん。
「ブンちゃん、ひどい!」
「元はといえばあゆみのせいだろい」
それはそうかもしれないけど…全然恥ずかしがってもいないブンちゃんが信じられない。
「お前のその顔見てるとゾクゾクするんだよなあ」
ニヤニヤといやらしく笑うブンちゃんは、わたしの髪を撫でる。
「あゆみの困って泣きそうな顔、好きだぜい」
「な、なにそれ!」
全然嬉しくない!ブンちゃんは、わたしを困らせて喜んでるってこと?!まったく理解できない!
「ブンちゃんのバカ!」
「ふーん。遅れてきた挙句、天才的な彼氏をバカ呼ばわりとは生意気なやつだな」
ぐいっと髪を引っ張られ、ブンちゃんの顔にわたしの顔が近づく。
「いたっ!ぶ、ぶんちゃんっ」
「もっとしつけされてぇの?」
無表情でそう問うブンちゃんに、首を横に振れば「だろい?」とにっこり微笑む。そんなブンちゃんに、わたしはもう何も言えない。
「ほら、行くぞ」
わたしの手を握り、歩き出すブンちゃん。指が絡まり、ぎゅっと握られる手にドキドキするわたしはもう重症なのかもしれない。結局なんだかんだ言って、ブンちゃんは優しい。いつも繋いでくる手に、合わせてくれる歩幅。デートのときは必ず家まで迎えに来てくれるし、こういうところで愛を感じる。ああ、ブンちゃんかっこいい!
「…なに、マヌケな顔して見てんだよ」
「ま、まぬけ?!」
前言撤回。やっぱり意地悪だ!むうっとむくれていると、ぐっと頬が引っ張られる。
「ぶんひゃん!い、いひゃい!」
「…その顔、俺の前だけにしとけよ…かわええから…」
だけど、なんだか幸せを感じる今日この頃。ブンちゃんの少し赤い頬が愛しく感じた。
2013.09.10