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□詐欺師の策略
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「すまん…俺はあゆみをそういう風には見れん」

分かってたけどね、うん。告白され慣れた幼馴染みは、わたしの長年溜めていた想いを数秒で砕いてくださった。もう一度言うけど、分かってたけどね。

「うん。今までどおり接してね」
「わかった」

家が隣同士で小さい頃から仁王が好きで、中学なってから仁王は立海に入って、何も取り柄がないわたしは普通の中学に通った。違う中学に入っても仁王が好きなことは変わりなくて、高校生になった春、相変わらず違う学校だけど仁王が忘れられなくてたまたま会った今日、この想いを伝えた。そして、分かりきっていた答えが返ってきたというわけだ。

「じゃあまた…」

気まづくなっても、今までも滅多に合わなかったのだから大丈夫。次会うときには、普通に接せられるはず。そう思ったわたしの考えを打ち砕いた朝。家を出れば、眠たそうにした仁王と遭遇した。神様は意地悪だ…会いたいと思っても会わせてくれなかったのに…こんなときに会わせてくれなくてもいいのに。でも、昨日今までどおりに接してって頼んだのはわたしだから、避けるのもおかしい。

「…おはよ」
「おー」
「相変わらず朝弱いんだね。部活は?」
「今日は朝練なしじゃ。じゃが、遅刻したら真田がうるさいんじゃ…朝練がない朝くらいもっと寝たいのう」

真田って誰?そう思ったけど、なんだか聞けなかった。だって女の子だったら嫌だもん。立海の女の子って可愛い子多そう…

「行かんの?ぼーっと突っ立っとったら遅刻するぜよ」
「い、いく!」

久しぶりに仁王の隣を歩く。隣をちらりと見れば、大きいあくびをしている仁王と目が合った。あくびをしていてもかっこいい。

「視線が熱いぜよ」

くくっと喉で笑いながらそう言った仁王が、やけに大人っぽく感じる。

「き、気のせい!」
「そーか、そーか」

くやしー!でも、やっぱりまだ好き。こうやって笑って話せることが嬉しくてたまらない。ずっと好きだった想いはなかなか消せないなあ…
――途中で仁王と別れてからも仁王のことが頭から離れなくて、ぼーっとしてしまう。久しぶりに一緒に歩けたことが嬉しくてニヤける口もとを友達に指摘されたが、気をつけてもニヤけてしまうくらいうかれていた。

「また会えるかな…」

一日中、ゆるんでしまった頬を引き締めることなんて出来ず放課後を迎えた。帰りに友達と寄り道をしているときも仁王のことを考えてしまう。昨日のことから今日の朝のことまでを友達に話すと「それってチャンスだよ!まだ頑張ってみたら?」と応援された。でも、もうフラれてしまっているから頑張ろうとかは思えなかった。あんまりしつこいとウザイ女だと思われることが怖かったからだ。
――友達と別れてもう少しで家につく近所で、見慣れた幼馴染みが見慣れない可愛い女の子を連れているのを見かけた。見たくはなかった…仁王が女の子を連れて歩いているのを。

「やっぱり彼女くらいいるよね…」

現実を受け止めるかのように自らの口から出たその一言が余計に惨めにさせた。うかれていた自分がバカみたいに思えて絶望した。あんなにかっこいんだから彼女がいることなんて予想はしていたし、わたしにこれっぽっちも望みがないことも分かっていたことだけど…喉の奥がつんと痛い。家の近所だ。仁王が彼女を家に招くことなんて安易に想像がつく。やっぱり神様は意地悪だ。
――気がつけば近所の公園に来ていた。公園に誰もいなかったのが救いだ。こんな今にも涙が溢れそうな顔なんて誰にも見られたくなかったから…誰もいなくてよかった。我慢していた涙が一つ溢れるとまた一つと次々と溢れ落ちる。ベンチに座った高校生がうじうじ泣いてるなんて笑えるな…でも今は悲しすぎて全く笑えないけど。

「あんた何で泣いてんの?」

誰もいなかったはずの公園で急に話しかけられ、ぱっと声のしたほうを向いた。そこには生意気そうな顔をしたクセっ毛の男の子が立っていて、その後ろには風船ガムをふくらましている赤い髪の男の子も立っていた。

「え、…それは…」
「なんかあったんだろい」
「あっ!丸井先輩!俺が先に目つけたんスから横取りしないでくださいよ!」
「別に先とか後とかカンケーねーし。ここは先輩に譲れよ」

急に現れて、もめている二人に呆気をとられ流れていた涙はもう止まっていた。

「家まで送ってやるよ」
「丸井先輩ずるいっスよ!」
「赤也うるせー!言ったもん勝ちだろい!」

賑やかなこの二人を見ていたら、おかしくて吹き出してしまった。

「丸井先輩のせいで笑われたっス」
「いや、お前のせいだろい」
「あ、ごめんなさい…急に笑って…」
「まあ別に、泣きやんだことだしいーんじゃね?」
「そおっスね」

改めて二人を見るとすごくかっこいい…ていうか仁王と一緒の制服ってことは立海生!?

「あの…お二人は…」
「俺は立海の切原赤也でそっちは丸井先輩」
「シクヨロ」
「えっとわたしは水原あゆみです」
「あゆみだな!じゃあ家まで送ってやるから立てよ」
「え、あ、でも…」
「いーからいーから!この近所なんだろい?」
「はい…」
「丸井先輩!抜けがけはナシですよ!」

賑やかな二人と家の前まで帰ってきた。終始、漫才してるみたいだったこの二人のおかげで、何だか気持ちが軽くなった。よかった、二人と会えて。そんなことを思っていると、切原くんが「あれ?」と首をかしげた。

「仁王先輩の隣の家じゃん」
「えっ、仁王と知り合い!?」
「同じ部活なんスよ!」

世間って狭すぎる…よりにもよって仁王の知り合いだなんて…

「へー、仁王の幼馴染みだったんだな!」
「まあ…」
「お前さんら何しとん?」

なんてタイミングなんだ…仁王の家の前には眉間に皺をよせた仁王がいて、わたし達を見ていた。

「おー!仁王、遅くなってごめんなー」
「来る途中であゆみと知り合ったんスよ!仁王先輩もずるいっス!近所にこんな女子がいるなら教えてくださいよ!」

そう言って、わたしの腕にしがみつく切原くん。それを見てより一層、眉間の皺を濃くした仁王は深いため息をついた。

「赤也、残念なお知らせじゃ。あゆみは俺のことを好いとるけ、お前さんのことは眼中になか」

えっ!何を急に言い出すの!?みんなの前でそんなこと言わなくてもいいじゃない!

「そーなんスか!」
「マジかよ?」
「ちょっ、まって「マジじゃ。じゃから、丸井と赤也は用なしなんよ。先に俺ん家に入っといてくれんか?」

ちぇっと舌打ちをする切原くんと、つまらなさそうに風船ガムをふくらます丸井くんは渋々といった感じで仁王の家に入っていった。ていうか、どういうこと!?なんでわざわざそんなこと言ったの!?

「ひどい…」
「何がじゃ?もっと赤也とひっついときたかったんか?」
「違う!そーじゃなくて、みんなの前であのこと言わなくてもいいじゃない!」
「言わんとあいつらしつこいじゃろ」
「別に楽しかったからいいもん!」

何年ぶりだろうか。仁王と言い合いなんて…仁王は怒っているのかよく分からないけど、なんだか悲しそうにも見える。

「…あゆみは、ずっと俺だけを好きでおったらええんじゃ」
「えっ…」

な、なに?キリッとした目がわたしを見つめる。仁王から目が離せない。

「俺だけを見ときんしゃい。わかったら返事」
「え、あ…それってどういう意味なの?」
「返事」
「…はい」
「あゆみは、ええ子じゃのう」

くしゃくしゃと髪を撫でられ、見たこともない表情で微笑む仁王にドキッと心臓が弾んだ。

「ちょ、ちょっと待って!でも、仁王はわたしのこと好きじゃないんだよね?それって勝手じゃない!」

ため息を一つついた仁王は後頭部を掻いた後、また真っ直ぐわたしを見た。

「俺は違う学校に通うあゆみを何度も見かけとった。ガキの頃から…ずっと俺ばっかり好きなんは悔しいけ、告られたときは意地悪したんよ」
「うそ…だって、さっき女の子と一緒だったじゃない…」
「あれは部活のマネージャーじゃ。今日は俺ん家にみんなで集まる予定じゃったから」

だから丸井くんと切原くんがこの近所にいたのか!一人で納得していると、わたしの頬を綺麗な指がなぞった。

「にお…」
「好きじゃ、あゆみ」

だんだんと近づく仁王の顔が綺麗で、ただ仁王を見つめた。すると、仁王はまた一つため息をついた。

「目閉じんしゃい…」
「だってここ外だし…」
「誰も見とらん」

そう言って何も言わせないと言わんばかりに仁王は、強く唇を押しつけてきた。恥ずかしいのと嬉しいのが混ざりあったキスは幸せで、夢をみているかのような甘い時間だった。



2014.04.03

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