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□雨宿り
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蒸し暑い。ザアザアと降る雨は、湿度が増して体がベタベタするし気持ち悪くて嫌い。朝は降ってなかったのに、今は土砂降りで最悪。放課後、傘を忘れたわたしは盛大にため息をついた。走って帰るか…意を決して雨の中走り出すと、パシャパシャと水が飛び散り靴下と靴が濡れて冷たくて、余計気分が落ちた。だいぶ走ったところで雨宿り出来そうな場所を見つけ、急いでそこへ入り込んだ。

「うわぁ…びしょびしょ…」

ぽたぽたと髪やスカートの裾から雫が落ちて、気持ち悪い。カバンからハンカチを取り出して適当に拭いてみたけど、それをしたことで雫が落ちるのを止められはしない。何度も拭いて、ハンカチもびしょびしょ。家まで後もう少しだけど、この雨の中をまた走らなければいけないとなると気が重い。

「一気に家まで走るしかないかな…」

本日二度目のため息をついて、また雨の中に出ようとしたとき、ぱしゃっと水が跳ねる音がした。驚き隣を見ると、よく知っている同じ学年の銀色の髪をした人気者の彼がいた。そのきれいな髪からは雨の雫が落ちていて、彼の整った顔に思わずわたしは息をのんだ。

「すごい雨じゃのぅ」
「えっ、あっ…はい!」

突然話しかけられて、どきりとした。だって、あのテニス部レギュラーの仁王くんがわたしの隣りにいて、それからわたしに話しかけているんだもん!仁王くんに密かな想いを抱いていたわたしの胸はどきどきと雨音にも負けないくらい煩く鳴っている。雨に濡れた前髪を掻きあげる、仁王くんのその仕草が色っぽくて魅入ってしまう。

「なん?」
「な、なんでもない…です…」
「なんで敬語なん?同じ学年じゃろ?」
「えっ!?わたしのこと知ってるの!?」
「知っとるよ。隣のクラスのあゆみちゃんじゃろ?」
「わ、わたしも知ってる!仁王くんのこと!」

仁王くんがわたしのことを知っていたことが嬉しくて、声が大きくなってしまった…そんなわたしを見て仁王くんは笑った。仁王くんがわたしに笑ってくれた!自分でも頬がだんだん熱くなるのが分かって、頬を手のひらで覆ったけど隠せてないと思う。わたし、顔赤い…絶対!

「…ところで、あゆみちゃん…さっきから俺のこと誘っとるん?」
「さ、誘ってないよ!?なんでそうなるの!?」
「制服、透けとるよ」
「ええーっ!」

わたしは、急いで体を隠すようにしてしゃがみ込んだ。そういえば、そんなこと気にもしてなかった。確かに服が体にひっついて気持ち悪い。恐る恐る仁王くんを見上げると、口を歪めて意地悪く笑っていた。そんな仁王くんもかっこいい…ってそれどころじゃなくて!早く家に帰って着替えなくては!大した体でもないのに恥ずかし過ぎる!で、でも!仁王くんをほっといて、さっさと自分だけ帰るなんて…せっかく仁王くんと話せたのに、こんな絶好のチャンスを逃すことなんて絶対できない!

「仁王くん!わたしの家ここから近いから来ない?」
「は?それって…大丈夫なん?」
「大丈夫!このままだったら風邪ひいちゃうし、おいでよ!」
「けど…まあ、あゆみちゃんがそういうならええけど…」

何かを気にしている仁王くんのことなんて気にならなかったわたしは、そうとう浮かれていた。だって、ずっと好きだった仁王くんが自分の家に来るなんて夢みたいだったから。
――家につくと急いでタオルを取りに行き、玄関にいる仁王くんに渡した。よくよく考えたら親は仕事で家にいないし、とんでもなく大胆なことをしてしまったのではないかと今になって反省した。しかも、よけいに緊張する…

「に、仁王くん、あがって!」

意識して、うまく仁王くんの顔も見れない。早く服も着替えなくちゃいけないし!

「あゆみちゃん…」

ぐいっと腕を掴まれ、びっくりして後ろを振り向くと思ったより仁王くんの顔が近くにあって体が固まったように動かなくなった。

「に、にお…くん?」
「…あゆみちゃん、家に誰もおらんの?」
「いない、けど…」
「…俺、男なんじゃけど…」
「え?仁王くんは男だよ」
「…天然なん?」

仁王くんはうなだれるように下を向いて、はあっとため息をついた。とりあえず、手を離して欲しい。さっきからどきどきが止まらなくて困る。

「仁王くん、そろそろ手をっ」

突然、仁王くんの方に軽くひっぱられ仁王くんの唇がわたしの唇にぶつかった。とっさの出来事に目を丸くしか出来ないわたしに、わたしの目を見つめる仁王くん。わたし、仁王くんとキスしてる?頭の中でぐるぐるとその言葉が回る。

「俺は男じゃって言ったじゃろ?」

そう言ってニヤリと笑う仁王くんは、同級生なのにやけに色っぽく大人びて見えた。てか、どうしようどうしよう!仁王くんとキスしちゃった!どうしたらいいの!?

「あゆみちゃん…?」

びくっと体が揺れた。恥ずかしくて顔も上げられなくて、どうしたらいいのかなんて言ったらいいのか分からなくて俯いていることしか出来なかった。

「あゆみちゃん…実は俺、ずっとあゆみちゃんのこと気になっとった」
「へ…?」

突然の仁王くんの告白に、間抜けな声が出てしまった。仁王くんがわたしのことを…?空耳じゃないよね?じっと見つめる仁王くんの瞳は真剣で、わたしもそんな仁王くんを見つめた。

「いっつも遠くから俺のこと見とったじゃろ。他の女子は俺の周りを取り囲んだり、俺のこと見て友達ときゃあきゃあ言ったりするのに、あゆみちゃんは遠くで俺を見るだけじゃったけ気になった」

それは、友達が幸村くんのことが好きで一緒に騒げなかったから…でも、仁王くんの真剣な顔を見たらこれ以上なにも言えなかった。ただただ仁王くんの瞳を見つめて、また近づいてくるその整った唇を受け入れることしか出来ない。密かに好きだった仁王くんがわたしのこと好きだったなんて夢みたいで、脳まで揺れるほど心臓がドキドキする。ちゅっと触れるだけのキスの後、仁王くんは眉間に皺を寄せ切なげにため息をついた。

「…あゆみちゃんのこと好きじゃ」
「わたしも、仁王くんのことが好き…」

ぽたぽたと髪から落ちる雫は冷たくて、でも仁王くんに掴まれてる腕はそこだけ熱を帯びていた。3回目に重ねた唇は熱くて、いつものクールな仁王くんからは想像が出来ないほど情熱的なキスだった。



2014.08.22

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