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□唇から伝わる
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「幸村くん好き!」
「知ってる」
「本当に好きだよ?」
「知ってる」
冷たい。氷のように冷たいです。わたしの片思い中の幸村くんは、儚げでとても綺麗。わたしがいくら好きだと言っても顔色一つ変えず、その美しい瞳は本の文字を追っている。細く長い指はページをめくり、その一つ一つの動きがしなやかでわたしの心を鷲掴みしてしまうのだ。ああ、かっこいい。
「毎日、毎日…飽きないの?」
「毎日言っても足りないよ!それくらい幸村くんのことが好きなの!」
「…なんか水原さんって…」
「なに?」
「忠犬みたいだね」
「えっ!な、なんで!?」
幸村くんにはわたしが、ご主人様に尻尾振ってる犬に見えているのか…複雑。わたしが悩んでいると、クスクス笑っている幸村くんが「変な顔して何考えてるの?」 って聞いてきた。幸村くんってたまに毒吐くよね…
「そんなに俺のこと好きなんだ…?」
「そうだよ!」
えっへんと胸を張って答えたわたしに、幸村くんの口元が意地悪く弧を描いた。
「じゃあ俺の言うこと何でも聞けるの?」
机の上に本を置くと、幸村くんの手がわたしの頬を撫でた。それにびくりと体が反応して、無意識に後退りをしてしまった。でも、それを幸村くんは許してくれず、腰に手を回されて体が密着する状況になり、わたしの顔は絶対に真っ赤だし心臓がどきどきして倒れそうだし、どうすればいいのか分からない。
「ゆ、ゆきむ…く…」
「キスしてみる?」
き、キス!?幸村くんと!?あわあわしてるわたしを見て、吹き出す幸村くんに冗談だと確信した。
「…ひどい。本当かと思ったのに…」
「水原さんの慌てる姿って面白いね」
未だに笑っている幸村くんの胸板をやんわり押した。からかうなんて酷い!
「そんなに残念?」
「え?…っ!」
ふわりと空気が動いて、幸村くんの唇がわたしの唇に優しく触れた。相変わらずクスクス笑ってる幸村くんと、放心状態のわたし。
「ほんと、水原さんって面白いね」
「ゆ、幸村くんもわたしのこと好きなの!?」
「さあ…どうだろうね?」
にっこりと笑う幸村くんが憎らしいけど、やっぱりかっこいい。
「幸村くん、大好きっ!」
「知ってる」
「幸村くんは?」
「うーん…あゆみの頑張り次第かな?」
「っ!今、わたしの名前!呼んでくれた!」
「ん?水原さんの空耳じゃないの?」
「ゆ、幸村くんの意地悪!」
むすっとしているわたしの腰をまた引き寄せて、耳元で囁く。
「もう一度キスさせてくれたら教えてあげてもいいかな…ね?あゆみ」
そう言って、わたしの返事を待たずに唇を重ねてきた幸村くんはこの後も好きとは言ってくれなかった。好きって言って欲しいけど、止まないキスが好きって言ってるみたいで、もう今はどうでもいい。優しく頬を包み込む幸村くんの手のひらが熱くて、わたしの体にまで伝染したかのようにのぼせるような熱が、わたしの中を駆け巡った。
2015.02.04