みじかいゆめ

□キスの罠
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「ブンちゃーん!」

久しぶりののんびりした休日。自分の部屋で雑誌を読んだりしながらゴロゴロしてたところに騒がしく現れたのは、幼馴染みのゆきだ。

「勝手に入ってくんなよ」
「別にいいじゃん!ブンちゃん、冷たーい!」
「お前が遠慮っていう言葉を知らな過ぎるからだろい」

ぷうっと頬を膨らまして俺の方を見るゆき。それを無視して雑誌の続きを読む俺。すると、ゆきは俺の隣に座り、穴があきそうな程じいっと俺を見てくるが、これは日常茶飯事な状況なわけで俺も特に気にしない。(俺がかっこいいからって見すぎだろい)

「ねぇねぇ」
「……………」
「ねぇねぇねぇ」
「……………」
「ブンちゃーん」

だんまりを決めたはずだったが、ゆさゆさと右へ左へ体を揺すられては鬱陶しいにも程がある。出来るだけ怒った顔をして、ゆきの腕を払った。

「なんだよ!しつけぇなぁ!」

めんどくさそうにそう言えば、目を閉じて俺の方を向くゆきにはてなマークを浮かべる俺。

「…………」
「ちゅー」
「は?」
「ちゅーしよっ」

頬を染めて上目使いでそう言うゆきに溜め息がでる。なぜ、そうなる。俺らは恋人同士でもないのに…こいつの思考回路がどうなってんのか見てみたい。

「何言ってんだよ」
「ちゅーう!」

そう言って近づいてくるゆきを「やめろ」と言って押し返した。油断も隙もあったもんじゃねぇ。時間が止まったようにゆきが何も話さなくなったと思ったのは、ほんの一瞬でいつもの明るい声が聞こえた。

「………あっ!そういえばわたし…用があるんだった!」

急にさっと立ち上がり、「忘れてたなあ」なんて言いながらドアに向かうゆき。やっと静かになる。

「おい、今度からノックして入れよ」
「分かったって!もうブンちゃんは口煩いなあ」

はははっと笑っているものの、こっちを向かないゆきがいつもと違うことにすぐ気が付いた。笑い方が無理してるような、なんて言うか…わざとらしい。

「ゆき?」

帰ろうとする手を掴むと、元気だけが取り柄みたいな奴が小さく震えてた。

「こっち向けよ」

軽くこっちに引っ張ると、ゆきは涙をいっぱい溜めた目で俺の方を向いた。

「は?何で泣きそうなんだよ」
「だって、ブンちゃんが…」

そう言いかけて、ひっくひっく泣き出したゆきをどうすればいいのか分からず、取り敢えず座らせ向き合うように俺も座った。

「俺が何かした?」

「だって…、そんなに嫌がらくてもいいじゃん!わたしとキスするの嫌なの?」

本日二回目の盛大な溜め息が出た。

「そんなことで泣くなよ」
「わたしにとっては、そんなことじゃないんだよ!キスして欲しいよ…」

うるうると瞳が揺れているのを見て、不覚にも可愛いと思ってしまった。なんだ、この気分は…

「…ちょっとだけだからな」

近づいていくとゆきはゆっくりと目を閉じた。唇が触れると柔らかく甘い匂いがして、すぐに離れようと思っていた意志とは裏腹に離れたくないと思わせられるような…そんな感情が湧いて出てきた。一度離れてまたすぐに口づける。今度は啄むようにキスをして、舌をゆきの唇の割れ目から忍ばせる。びくっとなるゆきが、何だか可愛く思えた。

「ふぁ…っ、ぶ、ブンちゃん!」

俺を軽く押し返してくるゆきはまだ薄く涙を溜めてて、頬が紅潮していた。

「ち、ちょっとだけじゃなかったの?」

潤んだ瞳で俺を覗き込むように見つめるゆきに、俺はなぜだか目が合わせられなくて視線を泳がせる。

「あー、そうだったな…」

あまりにもゆきの唇が気持ちよくて止まらなくて、不覚にも可愛いとまで思ってしまう俺がここにいた。悶々としていると、急に小さな手が俺の手を握ってきた。

「ブンちゃん…わたしねっ、ブンちゃんの事が好きなの!」

キラキラした目で俺を見るゆきは、もういつものゆきだった。

「ブンちゃんもわたしのこと、好きなの?」

幼馴染みだと思ってたやつにキスして思ったことが一つある。

「ねーえ!ブンちゃん!」

俺は多分ゆきのことが好きだと思う。何とも思ってないやつにキスしても、何かが込み上げてくるような…そんな気持ちにはならないと思ったから。

「うるせぇなぁ…」
「うるさいって何よ!ブンちゃん、やっぱりひどーい!」

ぷんぷんしてるゆきにもう一度キスをした。

「ブンちゃん…?」
「俺に好きだって言わさせてみろい」

ゆきの罠にかかったみたいで何だか悔しいから、まだ言ってやらない。お前のことで頭がいっぱいなんて、そんな恥ずかしいこと急に言えねーし。今日、幼馴染みが俺の中で女に変わった。


2013.04.21

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