みじかいゆめ
□見透かされた心
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「ゆきせんぱーい」
夕日が眩しい帰り道に一本の影がわたしに近づいて来る。声だけで分かるその人物は、わたしの片想いの相手。
「赤也…」
こうやって赤也がわたしに話しかけてくる時は、いつだって彼女と喧嘩した時ばかりで、勿論そんな話は聞きたくないのだけれど折角の話せるチャンスを棒に振るのは惜しい。
「一緒に帰りましょーよ」
「いいけど、どーせ彼女と喧嘩したから話聞いて欲しいんでしょ」
「当たり」
溜め息混じりにそう答えると、赤也はへへっと笑った。赤也のこういう笑いかたが好き。
「今回は、どうしたの?」
「んー、俺が怒らせたっス」
赤也は空中に目を泳がせながら、悪びれた様子もなくそう答えて笑った。
「じゃあ、謝ればいいのに」
「今回は謝りたくないんスよねー」
「何で?原因は?」
「…ゆき先輩」
そう言って赤也は真っ直ぐわたしを見た。なんで、わたし?もしかして、わたしが赤也たちの邪魔をしてるの?じゃあ、もう赤也と話したりこうやって一緒に帰ったり出来ないってこと?考えたくもないことがぐるぐると頭を回り、今にも涙が落ちそうなのを堪えて「早く仲直りしないとね」って出来るだけ明るく言った。でも、赤也からはわたしの想像と反する答えが返ってきた。
「仲直りなんかしませんよ」
「え?」
戸惑い、立ち止まったわたしに合わせて赤也も立ち止まる。
「ゆき先輩が好きだから」
思考回路が止まり、なんで?という疑問しか思い浮かばなくなった。
「好きになっちまったんだから仕方ないっスよね?」
手を握られ、はっとして赤也を見ると今まで見た事ない真剣な顔でわたしを見ていて、そのまま赤也の腕の中に引き寄せられた。
「まじでゆき先輩かわいい」
「ちょ、赤也?!」
じたばたするも敵わず抱き締められる力を強められ可愛い可愛いって言ってくれることが嬉しいけど恥ずかしい。彼女のことを考えると罪悪感と申し訳ない気持ちでいっぱいになる半面、夢のような出来事が嬉しくて自然と笑が溢れる。
「ゆき先輩、俺のこと好きってバレバレっスよ」
「そうなの?!」
極力出さないようにはしてたのに、赤也は鈍感だと思っていたけど意外にもそうじゃなかった。そんなことを考えてたら恥ずかしさが込み上げてきて、一気に顔が熱くなった。
「大好き」
額、頬とちゅっちゅっとキスをされて何だか擽ったくて、やっぱり恥ずかしい。
「ゆき先輩の気持ちも一応聞きたいんスけど」
そう言う赤也は意地悪く笑っていて、わたしの気持ちを知ってるのに「ちゃっちゃっと言っちゃってくださいよ」と急かしてくる。
「わ、わたしも赤也が好き!」
初めて口にした気持ちに、引っかかってたものが取れたようにすっきりした。満足そうに笑う赤也はわたしの頬を撫でて、唇に指を這わせた。
「キスしていい?」
「え!ここで?!」
「誰も見てませんって!」
「で、でも!」
慌てふためくわたしをよそに、赤也は答えを聞くより速く唇を重ねた。
2013.04.26