みじかいゆめ

□隠れんぼ
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放課後の教室でジャンケンをする五人の姿。男子テニス部のマネージャーをしているわたしとその部員の仁王くん、丸井くん、ジャッカルくん、切原くんだ。「隠れんぼしよう」と言い出したのは仁王くんで、案外子供っぽいなと思いながらも久しぶりの遊びにわくわくした。丸井くん、ジャッカルくん、切原くんも何だかノリノリでジャンケンにも気合いが入っていた。ジャンケンに勝ったのは、わたしと仁王くんと丸井くんでジャッカルくんと切原くんが鬼に決定した。

「ひゃっほぉい!」

楽しそうに隠れに行く丸井くんの後を続いて、わたしも走り出した。

「どこに隠れようか」

図書室か資料室か…どこに隠れても見つかる気がする。どうしようと立ち止まり考えていると、後ろからぐいっと手を掴まれた。

「ゆき、何しとる?早く隠れんと見つかるぜよ」
「ぇ?あ、仁王くん!」

仁王くんは、わたしの手をぎゅっと握って走り出した。急なことに呆気にとられ、走る度に揺れる銀色の尻尾をだだ見つめて仁王くんについて行く。ついた場所は、意外にも普通の教室だった。

「仁王くん、普通の教室ってすぐ見つかっちゃいそうだよ」
「いや、そうとは限らん。案外、普通の教室は見落としてしまうもんじゃ」

そう言うと、仁王くんはスタスタと教壇に近付き、わたしにこの中に入るように言った。わたしが中に入るとその横の空いたスペースに仁王くんも入ってきた。

「に、仁王くん?」

「俺も隠れんと見つかってしまうけぇ」

いや、そんな事は分かっているけど、こんなに密着した状態でいつ終わるか分からない隠れんぼは正直困る。心臓の音もどきどき煩くて、こんなにも近くにいたら仁王くんに聞こえてしまいそう。仁王くんと触れているところが熱い。ちらりと仁王くんを見ると、仁王くんもわたしの方を見ていたみたいで視線がぶつかった。

「ゆき、顔赤いぜよ。緊張しとう?」

ニヤリと意地悪そうに口の端を吊り上げて笑う仁王くんに、わたしは慌てて首を横に振った。

「嘘ついとるじゃろ」
「ついてない!」

余りにも仁王くんがじーっと見るもんだから、恥ずかしくて大きな声が出てしまった。

「ちょ、声大きいぜよ」

パタパタ誰かが廊下を走る音に仁王くんが、わたしの口を綺麗な手で塞ぐ。時が止まったみたいにその時間が長く感じて、よけいにわたしの顔が赤くなるのが分かった。音が聞こえなくなって仁王くんがゆっくりわたしの口から手を離す。

「静かにせんと、見つかるじゃろ」

人差し指でわたしの唇に「しーっ」と言って押し当てる。また、ぶつかる視線に目が離せない。

「にお、くん…」
「俺も緊張しとうよ」
「え?」
「好きな子とこんなに引っ付いとったら緊張するじゃろ」

それって、わたし?体が固まって動かないわたしに仁王くんの顔がゆっくり近付いてきて、唇と唇が重なったとき心も体も熱くなるのが分かった。目を閉じれば、何度も重なる唇に体の力が抜けていく。

「ふぁ…んっ、ぁ…」
「ゆき、かわえーのう」

だんだんと激しくなる口づけに眩暈がして仁王くんにしがみついた。


2013.05.01

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