みじかいゆめ

□束縛彼氏
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「仁王、暑いよ」

今、わたしは自分の部屋でわたしを後ろから抱き締めて離さない彼氏の仁王と一緒に休日を過ごしていた。

「俺は平気じゃ」

「仁王は平気でもわたしは平気じゃないんですけど…」

もうどのくらいこの体勢だろうか。何を言っても離れようとしない仁王に身を攀じるが、男の力に敵う筈もなく仁王の腕の中に閉じ込められたままだ。

「ええ匂いがするナリ」

わたしの肩に顔を埋めて、くんくんと匂いを嗅ぐ仁王にわたしは溜め息をついた。

「そろそろ離してよ」

ジタバタしても仁王の腕は力を増すばかりで一向に離して貰えない。

「あー、柔らかくて気持ちええのう」
「もう!仁王離して!」
「ゆき、顔が赤いぜよ」

仁王は、怒るわたしのことなんて気にすることもなく、クツクツ笑って首筋に顔を埋めたり匂いを嗅いだりしている。急にちくりと小さな痛みが首元に走り、そこはじんわり熱くなる。

「俺の印いるじゃろ?」
「もう!見える所には付けないでって言ってるのにー」
「見せ付けんと意味なか」

仁王は、赤く印が付いたところを撫でながら嬉しそうに笑った。すると急にメールの着信音が部屋に響いて、わたしと仁王は、机の上に置かれた携帯電話へ視線を移動した。

「ゆきのケータイじゃ」
「誰からだろ」

受信ボックスを開くと丸井くんからだった。

「…丸井?なんで丸井がゆきとメールしとん」
「丸井くんにたまにお菓子作ってって頼まれるからアドレス交換したの」

何だかおもしろくなさそうに、「ふーん」と返事をした仁王をよそにわたしはメールの内容を見てみると、やっぱり明日お菓子を作って来て欲しいという内容だった。返信しようとした時、後ろから伸びてきた手に、ひょいっとわたしの携帯が取り上げられてしまった。

「ちょっと!」
「こんな携帯いらんぜよ」

そう言うと窓を開けて「ポーイ」と効果音を付けられ、わたしの携帯は宙を舞って外に放り出されてしまった。

「あー!仁王!何するの!?」
「俺とゆきの邪魔するからじゃ。丸井が太るけ、お菓子も作らんでええ」

ぎゅうっとまた後ろから抱き締められ、明日丸井くんに謝らないとと思いながら溜め息をついた。

「俺の事好き?」
「好きだよ」
「俺はゆきを愛しとうよ」

耳元で囁く仁王の息が耳にあたって擽ったい。

「ゆき」

名前を呼ばれ振り向くと、唇を塞がれた。舌を絡ませ、歯列をなぞられ、下唇を舐められ、唾液の混ざり合う音が脳に響いてクラクラする。仁王のキスは、気持ち良くていつも何も考えさせて貰えない。

「俺はゆきにメロメロじゃ」
「もう、何言って、」
「しー」

唇に仁王の人差し指が触れる。

「もっと気持ちええ事するけ、お喋りはお終いぜよ」

また重ねられる唇にゆっくりと目を閉じ、これからの快楽に胸を高鳴らせた。
――次の日、丸井くんにメールを返せなかった事とお菓子を作れなかった事をわたしは謝っていた。

「ほんとにごめんね」
「いいって。明日、作ってきてくれたら許す」
「本当?よかった」
「…丸井」

事が終わろうとしていた時、眉間に皺を寄せた仁王が現れた。

「何だよ、仁王」

きょとんとする丸井くん。仁王は私の肩にかかっていた髪をさっと後ろに払い、わたしを丸井くんの方にしっかり向かせると、わたしの首筋にあるであろう昨日付けられた赤い印を指さし、丸井くんに見せつけた。仁王の行為にわたしは一気に顔が熱くなるのが分かった。

「ゆきは俺のじゃき、違う奴にちょっかい出してくれんかのう」

苦笑いする丸井くんに、また後で謝らないとと思うわたし。自分の印を見せつけ満足そうな仁王。まったく、この男はどこまでわたしを困らせるのか…でも、そんな彼を可愛く思い大好きなわたしは少し変なのかも知れない。


2013.05.08

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