みじかいゆめ

□奪って
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好きって気持ちは何だか胸がぎゅうって締め付けられて、切ないのに嫌じゃない。(たまにたまらないくらい嫌になったりもするけど) いつからだろう。同じクラスの丸井くんを目で追うようになったのは。
――放課後、たまたま本を借りようと図書室に行くと出窓にふっつぶしている赤。ドキッと心臓が鳴った。それが誰なのか、すぐ分かると同時に沸き上がる何ともいえない感情。色で表すならピンクとオレンジみたいな感じ。(自分でもよく分からないけど、そんな感じ!) 偶然でも会えたことが嬉しくて、何だかきゅーっとする胸を抑えながら丸井くんに近寄ってみた。幸いにも図書室には、丸井くんとわたしだけだ。

「…きれい…」

夕方の光が、丸井くんの髪の毛や睫毛を透かしキラキラと輝く。それは、男の人なのに驚くほど綺麗で思わず心の声が漏れた。こんなにもまじまじと丸井くんを見たのは初めてで、起きたらどうしようとかそんなことは頭の中にはなくて、ただただ丸井くんのことを見ていたくて。

「丸井くん…」

なんだろう。この気持ち。丸井くんを見てると好きが溢れて、抑えきれなくなるくらい心から溢れて…。気が付いたら、丸井くんにキスしてた。ただ重ねただけの唇から離れようとすると腕をぐいっと引っ張られ、また丸井くんの唇にわたしのが重なった。目の前には、丸井くん。でも、今の丸井くんは寝てなくてわたしの腕を掴んでる。

「お前、変態だろい」

唇が離れると、にやりと笑う丸井くんがいて、わたしは硬直していて何がなんだかさっぱりで…とにかく混乱している。(とりあえず深呼吸!)ていうか、近いし!腕、掴まれたまんまだし!

「ちがっ!てか、なんで…?」
「なんでって、お前からキスしてきたんじゃねーか」
「それはそうだけど…」
「だろい」

丸井くんのガムが膨らんで、ぱちんと音を立てて割れた。うーん、言い訳が思い付かない。

「てか、お前さ」
「なに、」

息を飲み込んだ。だって、丸井くんが真剣な顔してわたしを見てるし、緊張するじゃん。

「いっつも俺のこと見てるよな?」
「えっ!」

バレてた。

「俺のこと、好きなの?」

ぶわっと顔が熱くなる。それを見た丸井くんは、意地悪く笑って「バレバレ」と呟いた。ていうか、いつからバレてたの!?あわあわしているわたしを見て、吹き出してケラケラ笑い出す丸井くん。ああ、かっこいい。すると、突然ドアの開く音がして後ろを振り返ると柳くんがいた。

「丸井、こんなところにいたか。部活遅れるぞ」
「おー、すぐ行く」

丸井くんを呼びに来たらしい柳くんは、わたしをちらっと見ると先に図書室を出た。と、同時に丸井くんに腕を引かれ、耳元に唇が寄せられた。丸井くんの息がかかって、熱い。

「キスしたんだから、責任とれよな。ゆきちゃん」

ちゅっと頬にキスされて、にやりと笑う丸井くんに呆然とすることしか出来ないわたし。ていうか、名前知ってたんだ…

「俺の部活が終わるまで、ここで待ってろい」

ひらひらと手を振って図書室から出て行く丸井くんの後ろ姿を、ただただ顔を赤くして見送った。


2013.06.05

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