みじかいゆめ

□きっと夢中にさせるから
1ページ/1ページ

「仁王くん、ちゃんと日誌書いてよー。なかなか帰れないよ」

今日はわたしと仁王くんが日直で、放課後の教室で日誌を書いている。わたしが書いておくと言ったのに、一緒に書くと言ってくれた仁王くん。しかし、まだ何も書かれていない日誌を見て、わたしは溜め息が出た。さっきから窓の外ばっかり見て、手を動かさない仁王くんに何度「わたしが書こうか?」と聞いたことか…

「もう!聞いてるの?」

外に向けられていた目が、ゆっくりとわたしの方へ向けられると、わたしはわざと眉間に皺を寄せてみた。全く何を考えているのか分からない。

「見てみ。夕日が綺麗じゃ」

はっきり言って、そんなことはどうでもいい。あー、ドラマの再放送が始まっちゃう。お母さんに録画頼んでおけばよかった。今日は特別気になってたのに!もー我慢できない!

「仁王くん!貸して!」

ぱっと日誌を取り上げて、さらさらっと書き始める。そんなわたしを見て仁王くんは、眉間に皺を寄せた。

「なんでそんなに急いどるんじゃ?誰かと約束でもしとるん?」
「べつにー」

日誌を書くのに一生懸命で、仁王くんの問いかけに適当に返事を返す。それが気に入らなかったのか、急にシャーペンを持っている方の手を掴まれた。え、なに?なんかわたし、悪い事言った?

「な、なに?」

そう問いかけても返事もせず、ただただじっとわたしを見る仁王くんにちょっと焦る。仁王くんに見つめられて、焦らない子なんていないと思う。しかも、手だって掴まれてるし…かっこいい人にそんな事されたら誰だって焦る。

「七瀬さんは、好きな奴おるんか?」
「はい?」
「じゃから、好きな奴はおるんかおらんのんか聞いとるんじゃ」

真面目な顔して何を言う。わたしと、恋バナでもしたいのか。

「いないけど…仁王くんはいるの?」
「俺はおる」

真っ直ぐわたしのことを見る仁王くんは真剣で、こんなにも仁王くんに好かれてるなんて羨ましいなぁと思った。

「一緒のクラス?」
「気になるんか?」

質問を質問で返された。気にならないって言ったら嘘になる。だって、モテモテの仁王くんが好きになる人ってどんな人なんだろう。気にならない人なんていないと思う。

「少し…」

わたしがそう言うと、ニヤリといった感じで口角を上げる仁王くんに少しドキッとした。ああ、もうそろそろ手を離して欲しいなぁ…余計ドキドキするじゃないか。

「一緒のクラスじゃ」
「片思いなの?」
「今はそうじゃけど、これから絶対に好きにさせる」

この自信はどこからやってくるのか。でも、仁王くんはかっこいいし、何げに優しいし(部活あるのに、日誌を一緒に書いてくれてるし)、好きだって言われたらその子もそうなるかもしれない。

「両想いになれたらいいね!」
「…応援してくれるんか?」
「応援するよ!わたしに出来ることがあったら言ってね!」

わたしの手を握る仁王くんの手に、ぎゅっと力が入った。ていうか、いつまでこの状態なの?ちょっと恥ずかしいんだけど…

「仁王くん、手…そろそろ離して欲しいなあ」
「なんで?」

なんでって…こっちは慣れない事にドキドキしてるのに、仁王くんはなんだか楽しそうだし…やっぱり何考えてるのか分からない。

「いいから離して!」
「いやじゃ」

ぐいっと仁王くんの方に腕ごと引っ張られて、わたしは前のめりになった。引っ張られた腕が少し痛い。ていうか、仁王くんが近い!わたしと仁王くんの距離があまりなくて、仁王くんの綺麗な顔にわたしは息をのんだ。それと同時に顔が熱くなって、頭がくらくらした。

「七瀬さん、顔赤いけどどしたん?」

意地悪な顔して笑っている仁王くんは、本当に何を考えているの?仁王くんのせいで心臓が壊れそうな程、ドキドキしてる。

「仁王くんが近いからっ」
「応援してくれるんじゃろ?」
「これとは全然関係ないじゃん!」

すると、急に真面目な顔してわたしをじっと見る仁王くんに目が離せない。

「にお、く…」
「俺、七瀬さんのことが好きじゃけ、関係ないことなか」

え…仁王くんの好きな人ってわたし?思いもよらなかった告白に、わたしの脳みそはショート寸前だ。

「七瀬さんは、俺のこときらい?」
「その聞き方…狡いよ…」

少し眉尻を下げてそう問う仁王くんは、本当に狡い。嫌いなわけない。寧ろ、好きだって言われて喜んでいる自分がいる。混乱していると、優しく髪を梳かすように仁王くんに撫でられ、びくっと肩が震えた。

「いやか?」
「いや…じゃない…」

そう答えたわたしを見て、仁王くんは嬉しそうに笑った。まるで壊れ物を扱うかのような手つきで、髪から耳に耳から頬に手を滑らせる仁王くん。その行為にドキドキと脳みそまで響く心臓の音が煩くて、耳を塞ぎたくなる。もう、どうにでもしてという気持ちになるのは、なぜだろう。仁王くんの目を見つめていたらそんな気分になってしまう。

「仁王くん…」

動くわたしの唇を仁王くんの綺麗な指が撫でる。ゆっくりと近づいてくる仁王くんの顔。重なる唇が熱くて、甘い。

「これは、嫌?」

わたしの答えも待たずに、何回も触れるだけのキスをされる。薄く目を開けると、仁王くんの眉間には皺がよっていて、なんだかいつもの余裕が感じられない。

「好きじゃ…ゆき…」

苦しそうにそう言う仁王くんが愛しく感じる。どうしてだろう。今まで、何にも思ってなかったのに、今は仁王くんの事が愛おしいだなんて。わたしは、なにか魔法にでもかけられたかのようだ。

「俺のこと、絶対に好きにさせてやるけ…」

わたしが仁王くんのこと好きになるのなんて時間の問題だと思う。こんなにも愛おしそうで少し苦しそうにする仁王くんはとても魅力的で、わたしに触れる手も唇も優しくて溶けてしまいそうな甘い感覚に支配される。

「ゆき」

何度もわたしの名前を呼んで、何度もキスをする仁王くんに、わたしの背筋がぞくぞくと震えた。


2013.06.14
お題提供 : 確かに恋だった

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ