みじかいゆめ

□愛に埋もれて窒息死
1ページ/1ページ

ブンちゃんと付き合って三ヶ月。かっこよくて、おもしろいブンちゃんにわたしから告白した。奇跡的に付き合えて、毎日幸せなんだけど…実は、ブンちゃんとまだ手を繋いだこともなければ、抱きしめられたこともキスをしたこともない。それ以前に、ひっつくことさえ嫌がられてしまうのだ。

「どうしたらいいんだろ…」

ブンちゃんの部活が終わるのを教室で待ちながら考える。せっかく付き合えたのだから、恋人らしいことしたい。あの骨ばった手を握りたい。隣にいてもいい香りのするブンちゃんに抱きしめられたい。薄く形の綺麗な唇に触れられたい。考えれば考えるほど、我慢できない。ブンちゃんといるとたまにムラっとする…これじゃあ、ただの変態じゃないか。このぉ、煩悩めっ!煩悩退散、煩悩退散!はあ、ブンちゃんのことを考えるだけでこんな感じなのに…ブンちゃんは違うのかなあ。

「うーん…」
「ゆき、なに唸ってんだよ」

急に話しかけられ後ろを振り返ると、ぷうっとガムを膨らます悩みの人物。そのガムが羨ましく思うわたしは、もう重症だ。

「わっ!ブンちゃん…お疲れ様」
「おう、帰ろうぜい」
「うん!」

教室から出ようとするブンちゃんの後ろを急いで追いかける。悩むより行動だ!えいっと、ブンちゃんの腕にわたしの腕を絡めてみた。目を見開いてわたしを見るブンちゃん。

「な、何だよ!」
「腕…組んでもいい?」
「…っ、ダメだ!離せっ」

ぱっと振り解かれた手が虚しい。ブンちゃんって、何でわたしと付き合ってるんだろう。そもそも、わたしのこと好きなのかさえ分からない。ブンちゃんはモテるし、わたしじゃなくてもいくらでも可愛い子なんてたくさんいるし…なんか激しく落ち込んできた。

「ほら、早く帰るぞ」
「…いや」
「はあ?」

眉間に皺を寄せ、わたしを見たブンちゃんは意味が分からないというような顔をしていた。

「手、繋いでくれなくちゃ帰らない!」

子供っぽくて自分が情けないけど、いつまでもこんなのは嫌だ。わたしだって、ブンちゃんといろんなことしたい。

「何言ってんだよ。帰るぞ」
「いや!ブンちゃんは、わたしのこときらい?」
「なんで、そうなるんだよ…」
「ブンちゃん、わたしが触ると嫌がるもん!」
「お前なぁ…」

はあっと大きいため息をつくブンちゃん。面倒くさいとか思ったかな。なんか、喉がつんって痛くなってきた。涙出そう。

「わたしは…ブンちゃんに触りたい…」

一つ涙が溢れれば、次から次へと溢れてしまって止めたいのに止まらない。

「ブンちゃ、」

だんっと背中が壁にぶつかる。目の前には、相変わらず眉間に皺を寄せたブンちゃん。ブンちゃんの両手は壁につかれていて、その中にわたしは閉じ込められていた。

「何にも分かってねぇんだな。これも全部、ゆきのせいだかんな。もう、どーなっても知らねぇ…」

首すじにブンちゃんの顔が埋められたと同時に、痛みが走る。

「いたっ!ブンちゃん!何で噛むの?!」
「ゆきがかわえーから」
「へ…?」

じっとわたしを見つめるブンちゃんに顔が熱くなる。今、可愛いって言った?わたしのことを可愛いって…初めてブンちゃんの口から可愛いって!きゃーっと喜んでいると、ブンちゃんがわたしの頬を撫でて顔を覗き込んできた。

「ゆき…口開けて」
「…口?」
「あーって…」
「あー…うんんっ!」

わたしの開いた口にブンちゃんの舌が乱暴に入り込んできて、深いキスをされる。ゆっくりとブンちゃんの舌がわたしの口内を掻き回す。甘く、むせ返るようなグリーンアップルの味と香りに支配される。頭はぼーっとして、体は熱い。

「はぁ…ゆき…」

ブンちゃんの熱い吐息がわたしの唇にかかる。名前を呼ばれ、今まで以上にわたしの心臓の音は煩くなって…色っぽいブンちゃんにくらくらする。

「ゆき…」

するりとブンちゃんの手がわたしの太ももの内側に入り込み、ゆるゆると撫でられる。それに背筋がぞくぞくと震えた。

「わわっ!ブンちゃん!」
「…なに?」
「なにじゃなくてっ…へ、変なところ触らないで!」
「なんで?」
「だって…なんか変な感じ…」

くすぐったいような、何だかよく分からない気分で言葉にするのは難しい。とりあえず、かなり恥ずかしいのは確かだ。

「それって、ゆきが俺に感じてるって事なんじゃねぇの?」
「えっ!?そうなの?」

意地悪く口端を歪め、何だか楽しそうにわたしを見るブンちゃんは、かっこよくて妖艶な雰囲気を醸し出している。ていうか、わたし…感じてるの?もう、恥ずかしすぎてどうしたらいいのか分からない!どうしよう!俯くわたしの顎をブンちゃんにくいっと持ち上げられ、目と目が合う。絡まる視線に耐えきれなくて、顔を背けようとするがブンちゃんがそれを許してくれない。

「俺に感じてる顔、もっと見せて」
「や、やだっ!ブンちゃん、もうやめよ!」
「いや。ゆきが悪い。俺がずっと我慢してんのに、誘うようなこと言うからだろい」
「言ってないよ!ただ、手繋ぎたかっただけだもん」
「…ゆき、最後までしよ…」
「えっ、無理!誰か来ちゃうよ!」
「俺こそ無理。ゆきが可愛いから、今すぐ食べたい」
「わたし、食べ物じゃないよ!」

わたしの話を聞かずにボタンに手をかけるブンちゃんに、わたしの心臓は壊れそうで…もう死んじゃいそう。

「ブンちゃん!やっ…」
「ゆき、好き。大好きだから…」

刹那げに眉尻を下げながら言うブンちゃんが狡い。そんな顔して言われたら、断れないよ…だって、わたしもブンちゃんが大好きなんだもん。二人の荒い息づかいや甘ったるい空気に何も考えられなくなっていって、ゆっくりとブンちゃんに体を預けた。


2013.06.27
お題提供 : 下心と青春

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ