みじかいゆめ

□暑い溶ける熱い
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放課後、家までの帰り道にあるコンビニに寄る。中に入ると、外の茹だる暑さとは正反対でひんやりとした空気が体を包み込み「はあ、涼しい」と、ため息混じりな声が出てしまいそうになりながら、アイスコーナーへ一直線。あー、どれにしようかな。優柔不断なわたしは、いつもアイスとにらめっこしてしまうのだ。うーん…やっぱりガリガリ君かな…結局いつもと一緒のアイスを手に取る、と同時に隣からよく知ってる声がした。

「俺は、すいかバーだな」

びくっと肩が跳ねる。だってこの声は、わたしが好きな彼に似ているから…ていうか、多分本人だ!わたしはガリガリ君を持つ自分の手を見つめたままで、わたしの視界に入ってきた隣から伸びる手はすいかバーを取る。その手を辿って見てみると、同じクラスでわたしの片想い中である丸井くんだ。(やっぱり!)

「ま、丸井くん…」

驚くわたしに、きょとんとする丸井くん。なぜ、彼がわたしに話かけてきたのか全く想像つかない。だって、丸井くんはあのテニス部のレギュラーでみんなの人気者で…何より今まで同じクラスでも話したことなんてなくて、わたしが勝手に好きなだけで…初めてこんなに近くで見る丸井くんは、すっごくかっこよくて慌てる。

「七瀬さんって優柔不断だろい?」

そう言って、不敵に笑う丸井くんにどくんと心臓が鳴る。み、見られてた!?いつから?ていうか、わたしの名前知ってたの!?あわあわ焦るわたしの手から、すっとガリガリ君が奪われた。

「あ…」
「おごってやるよ」
「えっ!いいよ!おごってくれなくて大丈夫だから!」
「素直におごられとけよ」

丸井くんの指がわたしの額を軽く弾いて、そこからさきは何も言えなかった。ただ、レジに向かう丸井くんの背中を見つめるしかなくて、どきどきうるさいわたしの心臓の音は、店内のBGMに負けないくらい大きくなっていた。額を手でおさえる。丸井くんにデコピンされた!おさえた手の中の額が熱い…あと、顔も。

「おい、行くぞ」

スタスタと店内を出る丸井くんのあとを慌ててついて行く。わたし、慌ててばかりだな…ていうか、行くぞって!?どこに行くの!?外に出ると、ぶわりと熱が全身を覆い顔が無意識に歪む。

「ま、丸井くん…どこに行くの?」
「この近くに公園あっただろい?そこで一緒にアイス食おうぜ」
「い、一緒に?」
「おう、早く行こうぜ。腹減った」

夢だろうか…こんなこと絶対ありえないと思ってた。丸井くんと話せて、一緒にアイス食べるなんて…一生分の運を使い果たしてしまうみたいだ。(丸井くんのためならそれでもいい!)
――公園につくと、わたしたちはベンチに座った。隣同士で並んで座るなんて!隣にいる丸井くんにまだ慣れなくて、心臓が壊れそうなほどドキドキしてる。

「ん、ガリガリ君」

差し出されたアイスを受け取る。丸井くんはバリっと袋を開けて、早速すいかバーにかぶりついていた。わたしも袋を開けて、ガリガリ君を食べる。が、すぐに隣から視線が送られていることに気がついた。見てみると、丸井くんがこっちをじっと見ていて、わたしは気温の暑さとは違う熱が体を覆った。これじゃあ、食べにくい…ガリガリ君なのにガリガリ食べられない。

「どうしたの…?」
「別に」

そう返事をして、またアイスにかぶりつく丸井くん。話したこともないし、わたしの顔が珍しかったのだろうか…あんまり見られると恥ずかしいし、困る。ちらっと丸井くんを見ると、手には棒が握られていて、さっきまでその棒にはアイスがついていたのに今はない。

「えっ!もう食べたの?早いね」
「普通だろい。七瀬さんが食べるの遅いんじゃね?」

確かに、緊張していつもみたいに食べられないから遅いかも…溶けちゃうから早く食べないと!わたしも一生懸命食べるが、また隣から視線を感じる。丸井くんが見てる。

「うまそうだな」
「え?」
「よだれでそうだぜい」

もしかして、わたしのアイスを狙ってる!?丸井くんが食いしん坊なのは知ってたけど…わたしの食べかけのアイスじゃあ間接キスになってしまうし…あげたいけど…

「なあ、食べていい?」

な、なんて言った!?わたしの食べかけを丸井くんが食べちゃうの!?まさかの展開に汗が噴き出す。

「いいけど…」
「まじで!じゃあ遠慮なく」

アイスを握るわたしの手を丸井くんの手が握る。わわっ!丸井くんは小柄なのに、手は意外に大きいんだ!そんなことを考えていると、丸井くんの顔が近づく。しかし、少し傾けた顔はアイスを通り越して、わたしに近づく。わたしの唇に丸井くんの唇が重なった。冷たい丸井くんの唇に体が震える。ペロっと唇を舐めあげられ、離れる丸井くんは悪戯っぽく笑った。

「え…ま、るい、く…ん?」

呆然とするわたしは、何が何だかわからなくて…だってあの丸井くんがわたしにキスするなんて…

「俺、七瀬さんのこと好き」

なに、この展開。わたし、目を開けて寝てるってことないよね?現実なの?

「すっげぇ好き」

まっすぐ真剣な目でわたしを見る丸井くんから、恥ずかしいのに目が逸らせない。

「七瀬さんは俺のこと好き?」

こんなときに、恥ずかしくって何も言えないなんて情けない。手に持っているアイスが溶けて、わたしと丸井くんの手に伝う。それを丸井くんがペロリと舐めた。びくっと体が反応してしまうことに、よけい恥ずかしくなって、この甘い空気にくらくらするわたし。

「かわえぇ…またよだれ出てきた」

ぐいっと腕を引っ張られ、今度は噛み付くようなキスをされる。どうしたらいいのか分からなくて、丸井くんに体を預けた。ぼとり、と地面にアイスが落ちる。

「七瀬さんって俺のこと好きだろい?」

唇が離れると、意地悪く歪んだ口で自信満々にそう言った丸井くんに、わたしは真っ赤になってコクコクと頷くことしか出来なかった。そんなわたしを見て丸井くんは一層意地悪く口を歪め、わたしの耳元で妖しく囁くのだ。

「これから俺ん家くる?なぁ…ゆき…」

鼓膜に響いた丸井くんの言葉に、気を失ってしまいそうな程のめまいを感じた。


2013.07.31

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