ながいゆめ

□意地悪ダーリンと甘いキス
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リップよし、マスカラよし、髪さらさらよし、お肌の調子もよし!毎朝、学校に行く前に全身鏡でチェックするのは絶対かかさない。だって、わたしにはかっこいい彼氏がいる。「いってきまーす」と元気よく家を出て、その大好きな彼の所へ真っしぐら。

「丸井くん、これ食べて」
「わたしのもー」

いつもの待ち合わせ場所で可愛い女の子たちに囲まれているのは、間違いなくわたしの彼氏である。

「ブン太!」
「おー、まお。おはよ」

ニコッと笑うわたしの彼氏は、鼻血が出てしまいそうなくらいかっこいい。周りの女の子たちも、その笑顔を見てうっとりしている。 (わたしの彼氏だということはお忘れなく!)

「じゃあ、みんなサンキューなっ」

そう言ってわたしの方にやって来たブン太の手には、たくさんのお菓子でいっぱいだ。わたしたちは、付き合ってまだ二ヶ月。初めて付き合う彼氏でまだ余裕もないわたしは、女の子たちと楽しそうにしたり、お菓子を貰ったりする光景に嫉妬の炎をメラメラと立ち上らせてしまうのだ。わたしの背景は、火事並に燃えていることだろう。

「そんな顔してると、ブスになんぞ」

女の子たちから貰ったお菓子を頬張りながら、そんなこと言うブン太は本当に意地悪だ。わたしが嫌がってるの知っててやってる。 (本当に性格悪い!) なによ、ぱくぱくお菓子ばっかり食べて。そんなに食べてたら、いつか家のドアから出れない程太っちゃっても知らないんだから!

「ブンちゃんの周りには、可愛い女の子ばっかりだもんねー」
「何、ムッとしてんだよ。俺かっこいいから仕方ねぇだろい」
「自分で言うな」

くそー、本当にかっこいいから困るよ。口元にお菓子のクリーム付いてても輝く程かっこいいってどういうこと?

「そんなかっこいいブン太の口には、お菓子が付いてますけど」
「まじか!とって」

わたしの方に顔を出すブン太との距離が近くてドキッとしてしまった。 (いや、しない方がおかしい) ていうか、顔が熱い…。そんなわたしを見て、ブン太は意地悪く口端を吊り上げて笑うと、こっちと言って学校とは反対の道に入っていった。なんで、わざわざ違う道に入るの?ついて行くと、相変わらず意地悪な顔して手にはたくさんのお菓子持ったブン太がいた。

「ブン太、学校行かないの?」
「行く前に口についてるの取って」
「もう、しょーがないなぁ」

ハンカチをカバンから出そうとゴソゴソしていると、ブン太がわたしを呼ぶから動きを止めてブン太を見た。ブン太は、わたしの方に顔を突き出して待ってる…ていうか、非常に近いのですが…!

「ん」
「えっ、あっ、ちょっと待って!今ハンカチ出すから」
「ハンカチなんていらねぇよ」
「へ…?」
「口で取って」

何を言うかこの男は! (たたたたるんどる!) 一気に顔が赤くなるのが分かって、もう顔から湯気が出そう。キスだって付き合ってからまだ一度もした事ないのに!しかも、わたしファーストキスなのに!

「早くしろよ」
「やっ、無理!」

絶対無理!そんなことしちゃったら、恥ずかしくて死んじゃう。

「ふーん…、じゃ仕方ねぇからさっきの女の子たちにしてもらおっかなー」
「やだやだ!」
「じゃあ、取って」

この男、本当に意地悪だ。余裕な顔して、わたしが恥ずかしがってるの知ってて楽しんでる。わたしをじっと見て目を離さないブン太のせいで、わたしの体は熱くてたまらない。ペロっとクリームの付いてる所を舐めると、失神してしまいそうな程の眩暈を感じた。甘すぎるそれに溶けてしまいそうな体が、どれだけブン太のことを欲していたか物語る様で、恥ずかしくてぎゅっと目を瞑る。

「物足りねぇって顔してるぜい」
「そんなことない、もん…」

バサバサっと何かが落ちる音がして、目を開ければ視界いっぱいにブン太の顔があって、唇が熱い。ぎゅっと強く抱き締めて、啄むようにキスをするブン太に頭はクラクラして、状況に付いていけない。

「ブン、んっ…」

名前を呼ぼうと口を開けば、ブン太の舌が容赦なく入ってきて、わたしの舌を絡め取り弄ばれる。ファーストキスなのに過激すぎるブン太に、足がガクガク震えて体に力が入らない。唇が離れると楽しそうに笑うブン太がいて、わたしは呼吸を整えることに必死で、頭はぼーっとする。

「まおがエロ過ぎだから我慢出来ねぇだろい」
「えっ!どこが?!」
「全部」

わたしはいつからフェロモンを出す生き物になってしまったのだろうか…足元に目をやると女の子たちがくれたお菓子が散らばっていた。

「まおだけにしか、こんなことしねぇから」
「…ほんと?」
「当たり前だろい」

そう言って、また近付いてくるブン太の顔にゆっくりと目を閉じながら、新しいグロス買いに行こって思った。


2013.05.18

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