ながいゆめ

□ふたりっきりの保健室
1ページ/1ページ

今、わたしの周りには沢山のお花たちが飛んでいることだろう。朝のキスから舞い上がっているわたしは、次のキスはいつだろうかとドキドキ胸を高鳴らせている。ちらりと横目にブン太を見れば、ブン太もこっちを見ていたようで、視線がぶつかる。ぱちりとウインクするブン太は、普段あんなに輝いていただろうか…眩しい。

「なんじゃ、アイコンタクトか?ラブラブじゃのう」
「わっ!びっくりしたぁ。急に現れないで!」

ニヤリと意地悪い笑みを浮かべ、わたしの視界に突然現れたのは隣の席の仁王。

「ブンちゃんも機嫌良かったし、朝から何かあったんか?」

ぎくり。仁王ってやけに鋭いから苦手。

「べ、別にー」
「そうか?」

ゆっくりと伸びてきた仁王の指が、わたしの唇をつんつんと突っついて、さっきよりもっと意地悪い顔して笑う。

「ブンちゃんの口元にラメが付いとったんじゃが、まおちゃんのグロスのラメとよう似とるのう」

ぱっと口元を手で覆うと、くつくつと喉で笑う仁王。顔が熱くて、自分が今どんな顔してるのか安易に想像できる。なんでもお見通しって感じで、わたしを見る。だから、仁王は苦手なんだ。

「仁王には関係ないもん!」

わたしは、ぱっと席をたった。今は、仁王の隣で授業は受けられない。だって、絶対面白がってからかってくるに違いない!(今までも何回かあって授業中に先生に怒られたこともある!) 赤い顔を隠すように俯きながら教室を出て、わたしは保健室に向かった。屋上でもいいけど、日焼けしそうだしコンクリートも痛いし。保健室の前に着くと、控えめな声で「失礼しまーす」と言いドアを開けた。部屋の中を見渡しても先生の姿はなく、保健室には誰もいない。どうやら外出しているらしい。授業開始のチャイムを聞きながらベッドに入り、その周りにあるカーテンを引いて寝転がった。保健室にして正解だったなあ、なんて思っているとドアがガラっと開く音がして、誰かが入ってきたみたいだ。先生かなっと思ってそのまま眠りにつこうと布団をかぶると、カーテンの向こうから私の名前を呼ぶ声がする。

「まお」

聞き覚えのあるその声に、ベッドから飛び起きカーテンを開けると、そこにはブン太の姿。

「えっ!ブン太?どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇだろい。サボるんなら俺も誘えよ」

そう言ってわたしの所へ近寄ると、ぐいぐいと体を押して一緒のベッドに入ってきた。

「わっ、ちょっと!」
「なんだよ」
「あ、あっちも空いてるよ!」
「…まおの隣がいい」

何この人…可愛いんですけど。普段、意地悪ばっかりされているせいか、甘えてこられるとなんか照れる。ぎゅっと抱き締められ、ブン太の胸に顔を押し付けられると、全身ブン太の香りに包まれたような気がして、すごく心地いい。少し顔を上げてブン太を見れば、見てくんなって言ってブン太の胸に今度は強めに顔を押し付けられる。そして、急にブン太がポツリと呟く様に話し出した。

「まおって…仁王と仲いいよな」
「え、そうかな…」

隣の席じゃなかったら絶対話さないけどね、あんな奴!

「まお」

名前を呼ばれブン太の方を見ると、少し眉間に皺が寄っていて…でも怒ってるのとはまた違って、拗ねてる様な顔だ。ブン太の口元を見ると、さっき仁王に言われたことが思い出させられる。本当についてる…朝のことまでも思い出して、顔が一気に熱くなった。

「…何赤くなってんだよ…」
「べ、べつに…」
「…仁王と何かあったのかよ」
「ちがうよ!」

ブン太とのキス思い出したなんて、恥ずかしくて口が裂けても言えない。

「ふーん、俺には言えねーんだな」
「ちが、ほんとになにもない!」
「じゃあ、なんで赤くなんだよ!」

なんで怒ってるの?わたしは仁王とは何でもないし、仲良くした覚えもない。まさかとは思うけど…

「ブン太?」

もし、わたしの勘違いとかじゃなかったら…

「やきもち妬いてるの?」

かあっとブン太の顔が赤くなって、痛いくらいぎゅうっと抱き締められた。

「ちょ、ブン太!?」
「わりぃかよ…」
「へ…?」
「仁王とあんま仲良くすんな」

ブン太もやきもちとか妬くんだ…わたしばっかりかと思ってたから何か嬉しい。

「わたしはブン太が好き!」
「そんなん…当たり前だろい」

腕を緩められ、視線がぶつかって…って、この雰囲気は!もしかして、三回目のキス!?ぎゅっと目を瞑ってその時を待てば、期待していたものとは違う行為。

「ふがっ!」
「ばーか」

鼻をつままれて変な声が出てしまった。むくっと起き上がると、意地悪く口を歪めて笑いわたしを見下ろすブン太。

「そんなにキスしてぇんだったら、俺をその気にさせてみろい」

そう言ったブン太の頬はまだ少し赤くて、強気なセリフに全然似合ってない。それを見て、何だか可愛くて笑ってしまった。


2013.05.30

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ