ながいゆめ
□つまり、惚れた弱みなのです
1ページ/1ページ
あのケンカ以来、ブン太のスキンシップが激しくなったような気がする。
「ブン太、近いよ…っ!」
今日は、ブン太の部活が久しぶりの休みということでブン太の家で放課後デート。
「近くねぇし。恋人同士ってのはこんなもんだろい」
わたしはブン太の膝の上に座らさせられていて、おなかにはブン太の手が回されている。この体勢は、緊張することこの上ない。時折、首筋に触れるブン太の唇がくすぐったくて身をよじると、その度におなかに回された手がわたしをぎゅっと締めつける。
「もう!ブン太っ」
ブン太のほうを振り向くとニヤニヤと口元を歪ませていた。その笑にどきりと心臓が跳ねる。かっこよすぎる…意地悪されるのはいやだけど、そういうときのブン太の顔って好きなんだよね…惚れた弱みとはこういうことを言うのだろう。
「顔真っ赤だな」
「誰のせいだと…」
「俺のせいって言いたいのかよ?」
「他に誰がいるのよ」
ケラケラ笑うブン太はどこか嬉しそうで、そんな顔を見ればこっちまで嬉しくなる。
「何笑ってんだよ」
「ブン太といて幸せだなあって思っただけだよ」
「はあ?」
だって、ほんとにそう思ったんだもん。ブン太は「急に意味わかんね」と言って、わたしの首筋に顔をうずめた。はあっとため息をつくと、顔を上げ「当たり前だろい」と少し頬を赤くしてそう言うもんだから、おかしくなって笑ってしまった。
「…まお」
名前を呼ばれブン太のほうを見ると、真剣な目をしてわたしを見ていて、そんなブン太の表情にわたしの心臓はどきどきとうるさくなっていく。
「…ブン、んんっ!」
目をつむる暇もなく、突然ブン太の唇がわたしの唇に重なった。ブン太の唇は、わたしの唇を味わうかのように啄んで、そんなブン太の行為にくらくらする。ぬるりと唇の隙間から入ってきた舌に、びくりと体が跳ねた。何回しても慣れないそれは、なにかを確認するかのようにわたしの口内を優しく撫でる。あれ…なんかいつものキスとちょっと違う…そう思った矢先、わたしのおなかに回されていた手は、するりと下におりていき太ももをゆるゆると撫で出す。
「ふあっ…あっ…」
唇が離れると、耳たぶを甘噛みされ耳の形にそってブン太の舌が這う。
「ひゃあっ!ちょっと待って!ブン太!」
「…なんで?いやだ?」
「いやと言うか…恥ずかしいから…」
なにも言わないブン太の顔を覗く。と、同時にくるりと体が反転し、床に背中がつく。上には、ブン太と天井が見えた。
「でも…俺、我慢できねぇんだけど…」
「へ?ぶん、た?」
切なそうなブン太の顔に、きゅんとするわたしの胸…って、きゅんとしている暇はなさそうだ。手を床に押さえつけられ、抵抗もできない。少し乱暴に唇が重なって、こんなに荒々しくて熱いキスは初めてで…変な気分になる。
「はあっ…まお…」
ちゅっちゅっと音をたて、首筋にブン太の唇がおりていく。触れられるところが熱い。
「あっ、ブン太っ!待って!」
「…待てねぇって」
「なんで急にこんなことするの!?」
わたしがそう言うと、がしがしと頭を掻いてわたしを見つめた。
「…焦ってんのかもな…」
ブン太はわたしの上から静かに起き上がり、はあっとため息をついた。
「この前の赤也とまおのことがあって、余裕なくなってんのかも…かっこわりぃ…」
いつも自信満々で余裕たっぷりのブン太はいなくて、不安そうな表情のブン太がいた。わたしのせいでこんな顔させているのかと思うと、胸がズキリと痛む。
「ブン太…本当にごめんなさい…わたしはブン太が大好きなの」
「まお…じゃあ、もっと俺のこと好きって言えよ…」
「…好き、ブン太が大好き」
「もっと…」
「す…き…」
まつ毛が触れそうなほど顔が近い。ちゅっと吸いつくブン太の唇が柔らかくて心地いい。
「よくできました」
ニヤリと笑うブン太はいつもの自信満々のブン太で、そんなブン太にまた顔が熱くなる。ああ、やっぱりわたしにはブン太しかいない。
「もっとキスさせろい」
ぐいっと引き寄せられ唇を奪われれば、なにも抵抗なんてできなくなる。唇にブン太の息がかかるたびに胸の奥が熱くなって、なんとも切ない気分にさせられる。
「まお…」
名前を呼ばれ、きれいなブン太の瞳を見つめれば優しく微笑んでくれる。ああ、なんて幸せなの。そんなことを思っていると、胸の締めつけがなくなった。あれ?なんか急に楽になった…って、ブラのホックがはずれてる!ブン太を見れば、口端を歪めて笑っている。さっきまでの微笑みはなんだったのだろうか…ブン太の手が胸に移動すれば恥ずかしいほど、びくりと体が反応してしまう。ブン太はそんなわたしを見て、今までにないくらい意地悪そうに笑った。
「やだっ!ブン太!」
「なんだよ。どうにでもしてって感じの顔してたぜ?」
「しーてーなーいー!」
「観念しろよ」
「やだやだ!」
ぺろりと首筋を舐められ、涙が出そうになる。わたしがいやがれば、より一層楽しそうにするブン太はわたしの顔を見て笑うのだ。
「変な顔」
そう言いながらも、わたしを愛しそうに見つめるブン太に怒ることができないわたし。結局、わたしのいやがる姿を見て楽しんでいるだけの意地悪な彼であった。
2013.08.23