ダイヤ

□儚
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「じゃあ、行ってくるな」

柔らかな陽の光を浴びながら、あなたはキレイにほほえんでいた。

ろうそくの灯は消える前が一番美しい。
そんな話が頭をよぎったけれど、関係ないよね。

あなたは今日、遠くに行く。

遠くの島、黒い重い塊が雨のように降りそそぐ島。

こんなにキレイに笑うあなたに、そんなところ似合わない。


あなたがいる場所は、ねぇ。


ここ以外ないでしょう。

「元気でな、ケガとか病気とか気を付けて」

―あなたの方こそ。

でもケガに気を付けてなんて言葉、言ってもちっぽけで消えてしまいそう。





言いたいの、行かないでって。

非国民だろうがなんだろうが関係ない。

国よりなにより、一番大事なのはあなただから。

いなくなるかもしれないなら、戦争になんて行かないでほしい。



「なぁ、笑って?…最後は、お前の笑顔が見たい」


最後って何?
帰って、来るでしょう?


最後なんて、言わないで。




「……笑ってなんて、あげません」



「笑ってほしかったら、帰って来てください」



「あなたがいれば私はずっと笑っていられますから」



「だから」



「だから、帰って来て下さい」



「ここであなたのこと、ずっと待ってますから」





だめ、泣いてしまいそう。

笑顔は見せてあげないと言ったけど、泣き顔も見せたくはないのに。

す、と前が暗くなったから顔をあげてみると、唇に彼のそれが重なった。




「帰ってくるよ、きっと」

またキレイな笑顔をうかべて、彼は言った。











(あぁ、なんでこんな非情なことがあるのでしょう。

傷つけあい血を流し、愛しい人を失くすことなんて誰も望みはしないのに。)



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