金星
□アンテナ
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「アンテナはいかがですか?」
彼の腕の中のアンテナが揺れた。
カラカラと風車のようなソレ。風に揺れてキラリと光った。
アンテナ
「アンテナ、ですか?」
私は聞き返した。このご時世に何を売っているんだ。アンテナなんてキャッチセールスで売る物だろうか。
「はい、アンテナです。きっとお嬢さんに似合いますよ」
ニコリと笑う彼。
アンテナを売っているようなので“アンテナ売りさん”と呼ぼう。
少し細い身体が目立つ。アンテナは売れていないのですか?
お嬢さんなんて呼ばれるほどじゃぁないけれど、アンテナが似合うとは私にどういうすすめていらっしゃるのですか?
「・・・ひとついくらですか?」
きっとこんなの売れていないのだろう。
ここは値段しだいでは買ってあげよう。
「そうですね・・・お嬢さんの思う値段でお売りいたしましょう」
「・・・それはアンテナ売りさんが困るでしょう」
「いえ、大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます、お嬢さん」
大丈夫なんですか。
私は自分の財布の中を見た。・・・手持ちが悲しいことに千円しかない。
「あの、千円しかないのですが・・・」
私はアンテナ売りさんの目の前に千円札を差し出す。
アンテナ売りさんはそれを微笑んで受け取った。
「十分ですよ。ありがとうございます」
差し出されたアンテナは黄色だった。いや、どちらかといえば金色。
綺麗だな。
「では、僕はこれで」
アンテナ売りさんは売り物のアンテナを揺らしながら遠くへ遠くへ。
私の手の中のアンテナも風に揺れていた。
カラカラ、と。
「アンテナ・・・か」
誰もいなくなった公園で私は呟いた。
ただアンテナが揺れるだけ。
カラカラ カラカラ
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