ほうき星

□小話
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そういえばボクは『言葉』を持ち合わせていなかった。








自分が喋れないなんてとっくの昔に解っていたことだったけど、そのことを再認識した瞬間だった。




ただ、泣いていた彼女を放っておくことがどうしても出来なかったんだ。



涙を流しながら歩く彼女を見たとき、自然と身体が動いて彼女の腕を掴んでいた。


彼女はその行き成りの感覚に驚いてボクを見てきた。



ボクはよくある、ナンパだとか痴漢だとかとは違うと弁解しようとした。
だって勘違いは嫌だったから。




そして、冒頭の文だ。




しまった、としか言いようがない。
言い訳染みたことすら言えないのだから。




そこでボクの選んだ行動はコレ。





ポケットからカラフルなボールを何個も取り出してそれらを空に放り投げる。



舞う色彩を見ながらも彼女はその瞳から涙を流していた。



あぁ、やばい。
そう思った。



何故だか分からないけど、自分でも焦ってきてボールの回転する速度は加速する。




ここで落してはいけない。


そう脳が電波を送る。





だってボクはピエロだし、彼女にそんなところを見せたくないじゃないか!







焦るボクに速度を上げるボール。








「ぁ、もしかして慰めようとしてくれてる・・・?」






彼女の声は透き通っていた。




ボールは重力に従って落ちてボクの頭に当たった。


でも、ボールなんてお構いなしでボクは彼女の言葉に首を縦に振る。




それは何回も何回も。





彼女はボクのそれを見て可笑しそうに笑う。



わぁ、可愛い・・・。



きっと白塗りのピエロの化粧の下で顔は赤くなってるんだろうなあ。






「ありがとう。でもね、コレは悲しいとか寂しいとかじゃないの」




彼女は流れ続けている涙を指差して言う。





「生まれつき涙腺が弱くてね、外出したらいつもこうなの」





可笑しそうに笑う彼女に涙は不釣合いだ。





外出度に泣いてしまうなんて、外出が嫌にならないだろうか・・・?




多分ボクは眉を寄せて表情を変えてしまっていたんだろう。




ピエロ失格だ。表情が出てしまうなんて。









「でも、外出は好きなの。だって世界は素敵だわ。貴方みたいな素敵な人に出会えるもの!」










その時ボクはあからさまに照れました。










ボクは『言葉』を持ち合わせていません。









それでもボクは今日、恋をしました。









とてもとても素敵な人です!






end




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