鼻梁:愛玩→影山

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「どうですか…?」

対面になる形で座るにはやけに距離がある場で、少女は食事を口に運ぶ宿主をじっと見つめていた。
いつもの者が作ったものでなく、彼の目の前にあるのは自分が作った料理たちだ。自信の有無を聞かれればぼちぼちだと答えるだろうそれを前にする問題点は、彼の舌に合うかどうかの話で。
一応、日々の味付けや彼の好みを知らないわけでは…と思ったけれど、そもそも彼に好みなんてあるのだろうかと疑問に思う。いつも顔色を変えない彼の姿は何も食事時だけじゃなくて常だ。ほんの少し変わる時があるのなら、それは自分達がサッカーで動いている時だろう。

「(…それも少しだけだけど)」

仲間の内でも、少女の考えを否定する者がいるに違いないであろうその憶測は、同時にチームのキャプテンの姿を少女に思い出させていた。
幼少の頃からの知人、恩師ということもありキャプテンの彼への敬意は大きく、また信頼も厚い。彼自身もキャプテン――鬼道には少し別の姿を見せているのかもしれない。

「(…影山さんは、ボールを蹴るのかな)」

サッカー部の総帥という名を持っていながら、彼がサッカーをする姿は見たことがなく、少女は内心不思議に思っていた。
影山さんもすればいいのに。影山さんがどんなボールを繋ぐのか見てみたい、なんて淡い期待が現実にならないことも薄々どこかで察しながら、それでも少女はぼんやり考えていた。名前を呼ばれ、我に返るその時まで。

「何を呆けているんだね。眠りたいのなら部屋に戻ることだ」
「あ…はは、すみません」

いつの間にか思考にばかり気を取られていたと気付いた少女が苦笑し、眠気のないことを伝えると、影山からは「まあいい」とあっさりした言葉を返される。
ガタ、と椅子を引く音と共に席を立った影山の食器の中はすでに無。少女がぽかんと拍子抜けした顔をしたのは一瞬で、慌てて動く影山に視線を移す。

「あの、」
「総ての事象において、完璧にこなすという事は必須だ」

自分の背側にある扉へと歩く影山がピタリと歩みを止めて少女を一目すると、二人の視線が混じりあった。
少女の赤い瞳は真っ直ぐ疑問を浮かべていて、かかる白の前髪が赤をさらに際立たせているように見える。同じく影山の知る別の赤色も、こんな風に見上げてくる時があったか。
サングラスの中の瞳は、少女からは何も見えない。

「次も怠らないことだな」

子供を褒める時のように頭を撫でるのではなく、見上げる顔の鼻筋を摘まんだ影山は、少女からの反応を待つことなく通常となんらかわらない足取りで部屋を出た。

愛玩
((総帥の最高愛玩)



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