「ねぇ、私とヤりたい?」 放課後の教室。 窓際に凭れ、夕陽を背中に受けてうっすら笑いながら問われる。 どこか色っぽく、妖しげな姿。 俺はそんな姿に不覚にも目を奪われた。 「………、」 「いつも私の事見てるでしょ」 くすりと一度笑われて、ゆっくり身体を起す。 ぞわり、と全身の毛が逆立った。 …そうだ。 俺はアンタを見てた。 初めて会った時から、アンタだけを見てた。 「……俺は ただ…、」 「ただ?」 言葉がうまく出てこない。 喉がカラカラに渇いて、唇が乾いて。 俯いて、足元だけを盗み見る。 ざわざわと頭の中が煩い。 どくどくと刻む心臓の音だって、耳障りで仕方がなかった。 「私が好きなんでしょ?」 「ー……っ、」 ドクン、と一度大きく心臓が跳ねた。 その言葉に、反射的に顔を上げると、アンタは満足そうな、見下したような表情をしていた。 ー俺はアンタを好きなんかじゃない。 俺は、アンタなんか好きじゃない。 俺は。 「私とやりたいなら、」 ゆっくり動く綺麗な形の唇を見つめながら、きつく唇を噛む。 強く握り締めた掌に、爪が食い込んで痛かった。 ー俺は、ただ見たかったんだ。 アンタの顔を。姿を。 「私をその気にさせてみなさいよ」 ーただ、見たかったんだ。 アンタのその顔が、苦痛に歪むのを。 泣いて、啼いて、俺に懇願してくる姿を。 こくり、と唾を飲み込む。 無意識に足が動いた。 鉄の足枷をつけられているように重たい足が、ゆっくりと、しかし確実にアンタとの距離を縮めていく。 「…どうなっても、知りませんよ」 甘い香りが鼻を掠め、温かな体温を腕の中に感じた。 すぐ近くで聞こえる、濡れた吐息。 滑らかな肌に手を這わせ、口付ける度に跳ねる身体。 ざわざわと心が騒いだ。 身体が熱くて、心臓の音が煩くて。 逸る身体に、抑えが効かなかった。 「ーアンタが、 悪いんだからな…」 ー俺は、見たかっただけなんだ。 アンタが俺に屈服する姿を。 俺に、怯えた表情を。 「、日吉、 んっ」 「ー黙れよ、」 ー俺は、アンタの目が、俺だけを写すのを待ってるんだ。 俺だけを見て、俺だけを想って、俺だけを感じるアンタを。 「ーあっ、 私の事、好き…?、ッ」 ー俺は、ずっとアンタを俺だけのものにしたかったんだ。 俺だけを見るようにしたかったんだ。 「、 好きじゃ、ありませんよ」 ー俺は、アンタが嫌いだ。 fin. 2007.7.26 |