突然、机の上に置かれた携帯のバイブが振動した。 着信を示すその振動。 こんな時間に誰だと、面倒ながらも折りたたみ式のそれを開く。 ディスプレー画面には既に見慣れた四文字。 その文字に少なからず心を緩め、通話ボタンを押し、携帯を耳に押し当てた。 「向日さん?」 <お、若か?> 「こんな時間にどうしたんですか」 <んー、あのさ、…> 電話口から聞こえてくる愛しい人の声に、無意識に顔が緩む。 手に持っていたペンを置き、ぎしりと椅子に凭れて座り直す。 今のこの時間にこの人が起きている事に少なからず疑問を抱いたが、口に出さず思うだけに留めた。 <お前今何してた?> 「勉強してました」 <お前寝ろよ!授業中居眠りすんぞ!?> 「あなたと違って俺はしませんよ」 <ーば、俺だってしねぇよ!> 皮肉気な言葉を意識して柔らかく言った科白に、軽くムキに返された。 否定はされたが、この人がこの時間まで起きているのだ、明日間違いなく授業中居眠りするのだろう。 <ー…な、ぁ、> 「はい?」 <ー………、> 拗ねた様に笑ったと思ったら、いきなり訪れた沈黙。 言葉を選んでいるのか、迷っているのか。 理由は兎も角、何か話したそうな気配を感じ、沈黙で続きを促す。 -ジャリ- 「!」 言葉の代わりに耳の奥に響いた、砂が擦れる音。 よく耳を澄ませば小さく、浅く息を吐き出す呼吸音も聞こえる。 時計を見ると、あと数分で12時を回ろうという時刻。 −なぜこんな時間に外を出歩いているのか。 −なぜこんな時間に電話をかけてきたのか。 理由は、簡単。 「………」 厚手のコートを羽織り、再び始まった会話に相槌を打ちながら、半ば早足に玄関に向かう。 ガラにも無く逸る心を抑えつつ、静かに、でも確実に距離を縮めていく。 あと数分後に来たる、愛しい人を想い描いて――― fin. 2007.12.5 |