「岳人、今後跳ぶの控えへん?」 「は?」 忍足は保健室で怪我の治療をしていた向日に突然そう切り出した。 向日は言われた意味を理解出来ず、忍足の顔を覗き込む。 跳ぶことこそが自分のプレイスタイルだと思っている向日にとってみたら、忍足の質問は至極難解なものだった。 「なんだよ急に。俺が何をしようが俺の勝手だろ?」 「見てて危なっかしいねん、岳人は」 表情や口調こそ崩さなかったものの、どことなく忍足の声に曇りがあった。 いつもどこか飄々とした態度で、岳人が失敗したら呆れた風に笑ってからかうはずなのに、この時ばかりは違った。 向日は驚き、同時に困惑の表情を浮かべ忍足を見つめる。 「傍で見とる奴のこと考えたことあるか?どれだけ心配した思とんねん」 「…もしかして、さっきのこと怒ってる?」 練習中、高く上がったボールを取ろうと高く跳んだ向日は空中でバランスを崩し、着地に失敗したのだ。 たいした怪我ではなかったが、一緒にダブルスを組んでいた忍足含め、観戦していた者の肝を冷やすのには十分だった。 「別に怒ってへん。ただ心配してるだけや」 「へへっ」 「何笑て…」 「いや。俺さ、お前と付き合う前までは、もし恋人とか出来たら束縛されるのは嫌だなって思ってたんだ」 「………」 「だけどさ、お前に束縛されるのは嫌じゃねぇかも」 その言葉は完璧に口説き文句だときっと向日は気付いていない。 気付いているのなら少しは照れたような素振りを見せてもおかしくはないはずだ。 束縛なんて、忍足もごめんだと思っていた。 だけど今は、目の前に居る向日を束縛してでも、自分の傍に居て欲しいと思った。 我侭なことだと判っていても、失いたくない存在だから――― fin. 2009.6.27 |