「跡部様と付き合えるなんて幸せだよね〜」

「ねー何で付き合えたの?」

「良いな〜羨ましー」




跡部さんと付き合うようになって二ヶ月、何度言われたか判らないこの類の台詞。

何で付き合ってるかなんて、そんなの私に聞かれたって困る、先に告白してきたのは跡部さんの方だ。

付き合う理由なんて好き同士だからと言われてしまえばそうなんだけれど、なぜ私なんかをって思ってしまう。

勿論私だって一年の頃からずっと跡部さんが大好きだったけど気持ちを伝えるつもりなんてなかったし、私と跡部さんでは釣り合わないのは判っていたから。

だから告白された時は嬉しさよりも驚きの方が強かったくらい。

正直、あの跡部景吾が自分の彼氏だなんて今でも信じられない。

でも、前より話すようになった事とか、笑って名前で呼んでくれる事とか、些細な事がすごく嬉しくて、そんな事で現実なんだと実感出来た。

贅沢な悩みだと皆言うけれど、今はまだいっぱいいっぱいなのだから仕方がない。




「おい」

「…うわっ」




がらりとドアが開かれ、跡部さんが現れた。

それに私は反射的に椅子から立ち上がり一歩後ろへ後ずさる。

騒がしかった教室内が突然静かになるのに反して、私の心臓は煩くリズムを刻み始めた。




「何だその態度は、あーん?」

「あ…いや、すみません」

「まあ良い。帰るぞ」

「…え? あ、はいっ!」




用件を言い終えた跡部さんは踵を返し、さっさと教室を後にした。

私は慌てて鞄を抱え、その後を追い教室を出るのとほぼ同時に教室から歓声が上がり、いっきにまた騒がしくなる。

毎週水曜はいつもこの騒ぎ。

跡部さんが教室に迎えに来てくれる度に改めて凄い人なんだと思う。

一緒に帰るのは嬉しいはずなのに、いつも私は跡部さんの数歩後ろを付いていく。




「…おい、何でいつもそんな離れて歩いてんだ?」

「べっ別にそんなつもりは…」

「前歩け」

「…はい、」




突然振り返り尋ねてきた跡部さんに曖昧な返事を返すと、半ば強制的に前を歩かされた。

背中に感じる視線が痛い。

跡部さんに見られていると思うとうまく歩けなくて、意識が全て後ろに集中してしまう。




「ーあ、あのっ」

「あん?」

「……やっぱり前は嫌です、」




私は耐え切れなくなって後ろを振り向き、そう俯きがちに言った。

跡部さんは暫く何も言わず、私達の間に沈黙が流れ、頭上から小さく溜め息が聞こえ謝ろうと顔を上げた瞬間、跡部さんは私の手を握った。




「だったら隣歩け。後ろ歩かれたら居なくなっても判んねえだろうが」

「あ…」

「お前は一生俺の隣を歩いてれば良いんだよ」




跡部さんはふっと笑い、そのまま歩きだした。

繋がれた手がとても温かい。

ああ、私きっと今顔真っ赤だろう。

綺麗な横顔を盗み見つつ、私は隣にいる幸せを噛み締めて歩いて行った。













fin.
2010.5.4
隣には君が




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