太い苗。


□この想い、君に、届きますように。
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「驚嘆に値する………」

ローレライは無事に解放された。
これで世界は平和になるだろう。
でもその代償は余りにも大きかったと、皆が言っていたけれど。

出来ることなら、自分もこの世界で生きていたい。
まだ見ぬ新しいものに触れたい。
崩落した大地の人々を、自分は幸せに暮らせる世界にしたい。
だけどそれは叶わない夢に過ぎないから。

結局俺は、被験者の生還を願った。
世界は、そのついでに過ぎない。

確かにこの星を救いたかったのも事実。
でも俺にとっては乖離を早める為の、ひとつの方法だった。

被験者には生きてほしい。
たとえこの身を糧にしてでも、この陽だまりを返したかった。
暖かいこの居場所には、自分ではなく“ルーク”が居るべきところだから。

だけど最後だから、お願いをひとつ。


俺の記憶を忘れないで。


記憶なんて忘れて当然のことなのに。
この気持ちを伝えることが出来なかったから。
被験者は、このことどう思うかな。
今までずっと、考えてた。

もう拒絶されたくなくて、恐くてどうすればよかったのかわからなかった。
言ったらそこでもうお終いになるような気がした。
それからはもう、恐怖でしかたなくて。
あなたにこんなことを考えてる自分を、これ以上嫌いになってほしくなかった。

やっぱりこんなことを望むのは、いけないことかもしれない。
卑屈な俺は、素直とは無縁だから。
あの日変わるって決めたのに。
最後まで自分は、どうしようもなく我が儘なままみたいだ。

今正に被験者が瀕死の状態にある。
そして大爆発は近い。
きっともうすぐ。

ジェイド達が助けに来てくれたけど、回復譜術の使えない俺には、庇ってくれた被験者の傷を癒すことは出来なかった。

もう味わいたくのなかった、あのどうしようもない歯痒さ。

あなたには、生きてほしかった。

レプリカなんかを、庇う必要なんてなかったのに。
被験者ひとりなら生き延びることが出来た筈だし、そうあるべきだった。
所詮俺はレプリカなのだから、変わりなんていくらでも造ればいいのに。

なぜあんたは薄れゆく意識の中、俺に笑い掛けてくれたのか。
今まで見たことのない、安堵したような優しい微笑み。
俺はどうすればいいのかわからなくて、何も出来なかった。
今でもわからない。

だけど今更わかる術なんて俺は知らない。
俺が奪っちゃった7年間も含めて、全部返す。


あなたは生きて。


あなたにこんな最後は似合わない。
こんなかたちで返すことになるなんて、望んじゃいなかったけど、被験者に礼を言う術がわからない俺の、最後のありがとう。


この想い、君に、伝わりますように。








 

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