澄んだ空気に浮かぶ星が綺麗。
その様はまるで異次元の世界のよう。

酷く冷える、夜だった。



**予感**





「おかえり。」

「‥ぅわ、びっくりさせないでよ。」


ベランダで煙草をふかす男の傍に、女が笑顔で駆け寄った。


「寒くない?中で吸えばいいのに。」

「お前こそ寒いやろ。早く中入り。」


男が微笑むと女はその家の中に入っていった。
男も腰まであるウェーブがかった長い髪を邪魔そうに後ろに払いながら、家の中へと入った。


賑やかすぎるその家の中には、十数人の男女がいた。
幼さの残るその顔で十代だと解る者も数人いる。
皆それぞれにグラスを傾け、酒を呑み交わしていた。



「うわぁ、人が真面目に仕事してる間に‥。」

「俺もちゃんとバイト行ったやん。」

「…あたしにも頂戴。」

「なんや、呑みたかったん?」


さっきまでベランダにいた髪の長い小柄な男が、今帰ったばかりの女の傍に座り自分の酒を手渡した。

女は男の肩に頭を預け、男が自分より短い女の髪を太い指で撫でつけると、女は瞳を閉じた。


「寝たらあかんって。」

「…眠いもん。」

「こんなとこで寝てたらなぁ、あそこで暴れてる野獣共に襲われるで。」

「…助けてくれるでしょ?」

「……勝てない喧嘩はせぇへんの。」

「何それ!」

「冗談やんか。絶対守ったるよ。」


その言葉を聞いて、女は安心したように微笑みまた瞳を閉じた。



「…あ、忘れるとこやったわ。やっぱり寝んといて。」

「‥‥‥何?」


寄り添っていた体勢を立て直して、男は自分のジャケットのポケットから小さな箱を取り出して女に渡した。


「‥何?」

「開けてみ。」


箱の中身は雪の結晶のネックレスだった。


「かわいい!‥雪の結晶?なんで半分だけなの?」

「もう半分は俺が持っとるよ。貸して。つけたる。」

半分の雪の結晶がついたチェーンを手にとり、男は女の首に手をまわしてそれをつけた。


「ほら、見てみ。」

男は自分の首についた数本のチェーンから一番細いそれを引っ張り出して見せた。
そのチェーンには女の胸元に光る半分の雪結晶と同じようなものがついていた。


「あ!ほんとだ。…でも微妙に色違くない?」

「これな、ふたつあわせて陰陽を表すんやって。‥つまり、俺が陰でお前が陽。光と陰ってとこやな。」

「…じゃあ、交換しよ。」

「‥は?」

「こっちが光でそっちが陰ってなんかおかしくない?逆じゃない?」

「‥‥‥。」

「ほら、あたしが陰で支える、みたいな。貴方は私の太陽だし?」


女はくすくすと笑いながら自分の雪結晶と男のそれを交換させた。


「‥でもこっちの色が女もんやろ。」

「あら?女物ならあたしより貴方の方が似合うわよ。」

「…なんでやねん。」


周りの音に消されてしまうように小さく笑いながら、二人はまた寄り添い合った。
女は男の肩に頭を預けて、男は女の髪をとかすように撫でつけた。


「‥お前やって、俺の太陽やで。」

「‥ん?何か言った?」

「いーや。なにも。」

「あたしはね、太陽になれなくていいの。」

「‥‥‥(聞こえてるやん)。」

「貴方が輝き続けるなら、あたしは陰でいい。何年でも、何十年でも陰でいいよ。」

「‥‥。」

「貴方が貴方らしく、やりたいことをやっていけるように。あたしは陰で支え続けるよ。」



女はそれきり瞳を閉じて、眠りについた。


「こんな騒がしいとこでよく寝れるな。
……、おやすみ。」


男は女の閉じられた瞼にキスを落とした。


付き合い始めて一周年という今日のこの日に、男は隣で眠る女との未来を見た気がした。

いつか大きなステージで歌う自分が疲れて帰る場所に、お前がいる。

お前がいるから頑張れる、なんてよく聞くけれど、男はそんな存在がいることをこれから先、何年経っても忘れることはないだろう。


だってそこには必ず、二人は一緒に居るはずだから。



〜1th Anniversary〜


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