太陽

□超能力が使えるまち
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「もうっ、今日も見つかんない!」
おばあちゃんを迎えに来たのに行きちがったみたいだ。春野さんはもう帰ったと言っていた。自転車で十分かかるんだから、おばあちゃんの足で歩いたら家まで三十分はかかる。来る時に会わなかったからこの道で帰ったはずだ。なのに、全然見あたらない。
自転車を止めて、今来た道をふりかえってみた。まさかとは思うが、具合がわるくなって、うずくまっているのではないか、と気になったのだ。
このあたりは、くねくねと曲がった道や、袋小路が多い。だから、ふりかえってもあまり遠くまでは見通せない。やっぱり、もどってみたほうがいいのかもしれない。そう思ったとき、犬のほえる声と、ちいさな悲鳴が聞こえた。
おばあちゃんの声だ。犬嫌いのおばあちゃんが、野良犬とはちあわせしたらしい。こんな時間までふらふら遊んでるんだからいい気味だ。そう考えながら、声のした方へ自転車を走らせた。

このあたりだと思う方へ進むと、ひとつの路地から犬がとびだしてきた。そこをのぞきこんでも、誰もいない。
「ん?」
何か光る物が落ちている。いや、置いてあった。おばあちゃんがいつも持ち歩いている飴玉だ。琥珀色の飴玉が7個、一列にならんでいた。犬におどろいて、落としたのだろうか。それにしては不自然だ。そういえば、おばあちゃんが持ってでかけた飴は帰ってくるといつも減っている。歩きながら物を食べるような人じゃないのに。
それにしても、おばあちゃんはどこへいったのだろう。あたりを見まわして思いあたることがあった。ここは袋小路だ。
「もしかして…」
あわてて自転車にとびのった。
 
この町のにはこんな袋小路がおおい。三方どこへもいけないものだ。
この町の袋小路には、必ず街灯がある。どこへも行けない道に、そんなものはいらないはずだ。このごろ、袋小路とおばあちゃんに不思議な関係があるように思えてならない。
この町のお年寄りは、よく歩く。離れた町に住んでいる親戚のおじいさんが朝の7時に顔を出す。私が歩いても一時間はかかる距離を、ぶらぶら散歩してきたと言うのだ。
今日のように迎えに行っても、いきちがいのことが多い。たったいま帰ったというのに、どうしても追いつけない。
絶対絶対絶対おかしい。おばあちゃんが言っていたことを思い出しながら、必死でペダルを踏んでいた。

「あーあ、私にも瞬間移動ができたらいいのに。そしたら学校にも遅刻しなくなるし、遠くにでかけるのもラクだし……」
私が寝坊して、遅刻寸前になったときのことだ。
「そんなこと、よく気をつけていればだれだってできるのに」
「何言ってるの?そんなことは超能力がある人じゃなきゃできないわ」
「人ができなくても、町ができるってこともあるんだよ。うまく機嫌をとってたのめばね」

あの時は気にもとめなかった。でもやっぱりそうだ。機嫌をとらなきゃいけないのは袋小路。不思議な力を使えるのは袋小路なんだ。

家の前にキーッと自転車を止めたのと、
「ただいま」
と玄関をあけるおばあちゃんの声が、同時だった。












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