太陽

□輪廻の果てで、また――
1ページ/1ページ




あるいは、クラス替えの直後。
あるいは、体育祭のとき。
あるいは、文化祭のとき。
事あるごとに感じていた、薄氷を踏むような危うさ。
それが表面化したのは数日の欠席を経て登校した時だった。
私はよく体調を崩して保健室に行く。学校を休む。
今回も風邪をこじらせたのが欠席の理由だ。
それらがよく思われていないことには気付いていた。
趣味や話題が皆と違う自分が敬遠されていることにも。


朝、廊下ですれ違った友達に挨拶をする。
もともと友人は厳しい基準の下に選んでいる。
そのなかでもこの二人は親友と呼んでも抵抗を感じないくらい信頼している人間。
「おはよう」と笑顔が返ってくることになんの疑いも抱いていなかった。
しかし、

「・・・・・・」

無視、された……?
まさか。
急ぎの用事があっただけだろう。
 
そんな儚い望みも教室に入ると同時に打ち砕かれる。
誰も、目を合わせない。
誰も、挨拶を返さない。
まるで、そこには何も存在しないとでもいうように。
そして、机の上の「ごめん」と書かれた二枚のメモは、先程の二人の明確な意思表示。
おそらく、私に対する最後の。

嘘だ。うそだうそだうそだ。
 
瞳から、顔から、己の全ての言動から、感情が抜け落ちていくのがわかる。
自分が誰からも必要とされていないと悟った。
もう、教師の話を聞く余裕などない。
考えているのは、一つだけ。
 
ホームルームが終了するとすぐに二人に近づいた。
くじ引きで席替えをした折、この二人は隣同士の席になっていたが、こんな時には便利だと冷え切った心の奥でぼんやりと思いながら二人の前に立つ。
相変わらず反応はない。が、構わず喋る。
はたから見たら馬鹿みたいだろうが、そんなことはどうでもいい。ただ、伝えたかった。

「『信じる』なんて一方的な感情に、何の意味もないってわかってた。でも、それでも――変わらないと、想いたかったよ」

けして大きくはない声。
それでも教室中に聞こえていると静寂が証明していた。
自分にできる限りの綺麗な顔で笑ってから歩き出す。
背後で二人が立ち上がるのを感じたが、もう挨拶は済んだ。ここに用はない。
目指すのは、屋上。
高く張り巡らされたフェンスの一部が破けているのは知っていた。

 
授業前だからか、誰にも会わないまま目的の場所に着く。
ドアを開けると、雲ひとつない澄みきった真冬の空が広がっていた。
ゆっくりと穴をくぐってフェンスの外に立つ。
ようやく追いついた二人の、スカートの裾がはためいた。
そして。息を切らして走ってきたらしい二人に向かって一言だけ、

「さよなら」

呟き、一歩踏み出した。

最後に見た二人の顔は哀しげに、苦しげに歪んでいて。

もし、来世というものがあるのなら。自分に許されるのなら。もう一度、あの人達の笑顔に逢いたい。

風を切り空を裂いて落ちていく中で心からそう願った。





2xxx年――――
今日は、中学校の入学式。
一緒に登校する約束を二人の幼馴染としていた。
はしゃいで駆け足になっていた二人が振り返る。
スカートの裾が翻る。

「おそーーーい!はやくーーーー!」

満面の笑顔に、何故だか、涙がこぼれた。






.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ