太陽

□約束
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「持って帰らなきゃいけないのはこれで全部か…」

人気のない校舎で、呟いたのは一人の少女。
黒髪に黒瞳。日本人としてごく普通でしかない容姿を持ち、この学校でもごく普通の成績を修めてきた彼女は、しかし今日だけはトクベツな人間だった。
それは、彼女がこの学校を去るから。
理由は簡単。
彼女の父親が、海外に転勤するから。
この学校では珍しいことではない。
それに、この学校の規則上、よほどの事がない限り戻って来ることが出来る。
実際、昨年も何人か転校した生徒が戻ってきた。
見送るほうも、見送られるほうも、そんなことは重々承知していた。
が、彼女はまだ中学生。
彼女の弟達のように簡単に適応できるほど子供ではなく、彼女の両親のように簡単に割り切れるほど大人ではない。
心残りなんて、両手で数え切れないくらいにある。
 入っていた部活は、最近少し部員が増えたもののまだ弱小部で不安が残る。進学校のこの学校は一度離れてしまえば勉強についていくことは困難だ。そしてなにより、一年以上を共にすごした友と離れるのは、つらい。


だから、彼女は約束をする。
何度も何度も、たくさんの人と約束をした。
たくさんの、しかし一つだけの約束を繰り返した。
言葉の持つ力は、相手への想いの大きさ。
約束の重要度は、相手への想いの重さ。
大切な想い達は、違えてはならない。
だから、彼女は心に刻みこむ。


私は、この場所に戻ってくる。
絶対に、この約束は破らない。
それが、自分がここに自分が残すことを許された、唯一つのものだから。


この約束を、貴女に。
私は、戻ってくる。何年かかっても、絶対に。

だってそれが貴女との、ヤクソクだから。

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