太陽

□それは突然で、しかし予め知っていたはずの未来
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「ねぇ、人は死んだら、世界のどこかにまた生まれ落ちるって言ってたよね?」


 彼女が自分の社に僕を呼び出したときからいやな予感はしていた。


「そうですけど・・・わざわざ呼び出してその話を?」
 神に仕えて先見の力を使う彼女は輪廻思想を好まないのに。
 なのに、その話を持ち出すということは。
「多分、もうすぐ」
「先見、ですか」
「うん。あまり遠くないと思う」
 やはり。もうその時が?
「何度目になっても、慣れませんね」
 ずっとずっと昔から、繰り返してきた。
「また、僕をおいて逝くんですね」
「ごめんなさい」
 記憶があるのは僕だけで、彼女は毎回忘れてしまう。
 いつもいつも、僕の前に現れては消えてしまう。
「あなたのせいじゃない。でも」
 いつもいつも、今度こそ、とこの手につかむのに
「だからこそ、あなたは狡い」
 いつもいつも、あなたはこの手をすり抜けていってしまう。
「あなたは、憎むことさえ許してくれない」
 覚えてもいない魂を、どうして恨むことができましょう。
「私は憶えてないけど、でも、私の中で私じゃない何かが叫んでる。ごめん、ごめんって。もっと一緒にいたかったって。やっとまた会えたのにって」
「あなたは毎回そう言います」
 ずっとずっと、追いかけているのに。
「何度繰り返したら、あなたは僕のものになるのでしょう」
「ごめん。最後まで一緒にいられなくて、ごめんなさい」
 いつだってあなたは束の間の安息だけ与えていってしまう。
 僕だけがずっと焦がれている。
 どんな時でも、後を追うことすら禁じて。
「でも、私がいなくなってもあなたは生きて」
 ほら。今度も。
「嫌です。あなたのいない世界なんて見ていたくない」
 いつも同じ我が儘を言うけれど、
「お願いだから、生きて。死のうなんて、考えないで」
 その、絞り出すような声と、頬を伝う涙には勝てないんだ。

「……僕は、あなたが望むのなら命だって差し出せるんです」
「知ってるよ」
「なら、傍にいさせてください。運命を変えることはできないかもしれない。でも、せめて―――」
「だめだよ。生きていて欲しいの」
 そんなに哀しい顔で笑わないで。
 あなたのその顔には、勝てない。

 こうなると、もう、何を言ってもその意思はゆるがない。
本当に、性質たちが悪い
 それでも、ずっと変わらないのだけれど。

「なら、また会いに行きますから」
「うん。待ってる」
「絶対探し出して、あなたが嫌がってもずっとつきまといますよ?」
「いいよ。次こそ、思い出させて」
「はい。だから、今度こそ――――」





 どうか、遠い記憶を黄泉帰よみがえらせて。
 強く美しいあなたの手で、歪んだ輪廻を絶ち切って。





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