小説
□I'm Dreaming Of A ...
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「ホワイトクリスマス?」
「何だそれは。」
「いや、雪が降るクリスマスの事らしいんだけどさ…。」
オニゴーリの言葉に、オオスバメとジュカインは思わず顔をしかめた。
無理も無いだろう、この2人は寒さが苦手なのだ。
「…嫌がらせとしか思えんな。取り敢えず止めとけ。いや、止めてくれ。」
「えー…。」
オニゴーリが口を尖らせる。
『ホワイトクリスマスをやってみたい』。
彼らの会話は数刻前、オーキド邸の居間で休んでいたオニゴーリがぽつりと漏らした一言が発端だった。
彼は氷タイプだ。
雪の日以上に過ごし易い日は無い訳だが、何しろここはカントーの暖地マサラタウン。
雪など降ったとしても1年に数回、況してや12月であるクリスマスにはまず降る見込みは無い。
だから、彼は自分の力―オニゴーリ族に備わる、空気中の水分を自在に凍らせる事ができる能力―を使い、雪を降らせたかったのだが…。
「大体、お前は元々雪山に住んでたんだろ?ホワイトクリスマスなんて何度も体験してるじゃないか。」
「ポケモンセンターにも入り浸ってたなら、クリスマスを知らなかったという事も無いだろうに…。みだりに天候を変えるものじゃない。」
嘗て共に旅をしていた仲間2人の反応は、冷たいものだった。
いや、言った相手が悪かったのだ。
寒さに強い、シンオウの出身者や水タイプの仲間ならまだ聞いてくれただろう。
オニゴーリは一瞬何か言いたそうに口ごもったものの、結局そのまま静かに席を立った。
「……………。」
どこかしゅんとした様子の彼に、オオスバメとジュカインは顔を見合わせた。
「へーがにー…。」
「おーオニゴーリ…って、どうしたよそんな浮かない顔して。」
「うー…。」
ぽふっ、と体重を預けてきたオニゴーリを、話し掛けられたヘイガニは少々危なっかし気に―因みに身長は彼の方が低い―受け止めた。
「ちょっ、大丈夫か?」
「…なあヘイガニ。」
オニゴーリが顔をヘイガニへ向ける。
「ホワイトクリスマスって知ってるか?」
「は?ホワイトクリスマス?何じゃそりゃ?」
聞き慣れない言葉に、ヘイガニが首を傾げた。
オオスバメ達と同じ反応だなと内心苦笑しながら、オニゴーリは答える。
「…ま、クリスマスに雪が降るってだけなんだけどな。1回やってみたいと思って…。」
それを聞くや否や、目を輝かせるヘイガニ。
「やれば良いじゃん、面白そうだし!お前雪降らせられるんだろ?」
「そうなんだけどさ…。さっき、オオスバメとかジュカインに猛反対受けて…。」
うきうきした様子のヘイガニとは反対に、オニゴーリははあ、と溜め息を吐く。
ヘイガニは、怪訝そうに眉根を寄せた。
「そんなの気にする事ねーじゃん。あの2人寒いの嫌いなんだし、反対するのなんか聞かなくたって分かってんだろ?」
オニゴーリの(悪知恵に関する)頭の良さは、ヘイガニが最も良く知る所だ。
ただ単にホワイトクリスマスが見たいだけなら、2人の目を掻い潜って実行する事は決して不可能では無い。
しかしオニゴーリは、尚も言い淀んだ。
「そうじゃなくて…えーと、何つーか…。」
「何だよ、お前らしくねーな。はっきり言えはっきり!」
びしっ!と指を突きつけられて、オニゴーリはちょっと考える素振りを見せる。
そして、おもむろにその場に腰を下ろした。