小説
□幸福な魔獣
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早朝。
一人の騎士が、城の中庭にぼんやりと佇んでいた。
ぼんやり、というのは、彼にしては珍しい事だ。
実際、大きな戦いに身を投じ、常にどこか緊張しながら生きてきた彼は、そんな事などしなかったし、だからこそここまで生き長らえてきた。
しかし今現在、彼―メタナイトは、非常にぼんやりとしていた。
「……………。」
誓いは、果たされた。
カービィとメタナイトは、銀河戦士団のほんの僅かな生き残りや、かつて共に戦った仲間の息子娘の力を借りて、遂にナイトメアを滅ぼした。
ププビレッジもデスタライヤーによって甚大な被害を被ったものの、粗方の復興作業は完了した。
自分は…いや、自分だけでは無く、この戦いで犠牲になった多くの仲間達が、人々が、この平和を待ち望んでいた。
その望みが、今漸く叶ったのだ。
それだけでは無い。
もうこの世で会う事はできないだろうと思っていた仲間が、僅かでも生きていた。
それに、カービィがいる。
ずっと付いてきてくれた部下達もいる。
協力してくれた村の人々もいる。
…自分の居場所が、ここにある。
それ以上に望む事など無い、筈。
…それなのに。
(…この虚無感は何だ。)
ナイトメア要塞から戻ってきてすぐは、このような空虚さは感じなかった。
後片付けやら何やらで忙しかった…というのもあるが、生まれてこの方『ナイトメアが存在している』状態が当たり前だった為、にわかに勝利を信じる事ができなかったのだ。
暫くして、村の様子と自分の心が落ち着いてくると、ナイトメアを倒したのだと、長かった戦いが漸く終わったのだと、受け入れる事ができるようになった。
…しかし、それと同時に感じたのは、浮き足立つような喜びでは無く、何かが抜け落ちたような虚しさだったのだ。
理由は、分かっている。
『戦いが終わったから』だ。
魔獣、とは、中には例外もいるものの、基本的には破壊する為、殺す為に生み出された生き物である。
戦闘要員として生まれた魔獣にとって、生きる事は戦う事であり、死ぬ時とは即ち敗れた時である。
戦う必要の無くなった魔獣には、最早生存する理由は無い。
そして、彼、メタナイト自身もまた、ナイトメアによって生み出された魔獣だった。
「…『魔獣は魔獣』…。」
ぽつり。
無意識に呟く。
いつも自分を苦しめる言葉。
ナイトメアの元から逃げ出して銀河戦士団に入る時、そして入ってからも、ずっと言われ続けていた一言。
メタナイトは自嘲気味に口の端を軽く上げた。
(…ギャラクシア。其方は何故、私を選んだのだ…?)
左手で剣柄を撫で、呼び掛ける。
意志を持つ宝剣は、彼の問いに静かに答えた。
――お前が、私を持つに相応しかったからだ。
(例え魔獣でも…か?)
メタナイトは更に問う。
――持つ者が物理的に何であるかは、私にとっては意味を成さぬ。お前が私を所有する運命にあった。ただそれだけだ。
持ち手の心の乱れを感じ取り、ギャラクシアは言葉を続けた。
――メタナイトよ。人の正体とは、物理的な分類よりも、精神(こころ)によって決まるとは思わぬか?
多くの者を見てきたお前には分かる筈だ。
そう言って、剣は沈黙した。
(……………。)
東の空が白んできた。
もうすぐ日が昇り、新しい一日が始まる。
ソードやブレイドもそろそろ起き出す頃だろう。
それでも、メタナイトはその場から動く事が出来ずに、ただぼんやりと立ち尽くしていた。