小説

□夢うつつ
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――冬。




「オオスバメ!」
「あ、お帰りフシギダネ。何だ?」
「…戦況報告を。」
「了解。」


ここは、かの有名なオーキド研究所。
今、この研究所では…

「ヘラクロスとオニゴーリがやられた。」
「ああ〜…遂にか…;;現在、戦力は?」

強敵との戦いが…

「俺とお前を除けば、6人。」
「…そうか…。」

山場を迎えていた。





「…くそっ、インフルエンザめ…!」

…但し、相手はウイルスなのだが。







その年カントー全域を襲ったポケモンインフルエンザは、特に感染力の強いものだった。
それはあちらこちらで猛威を奮い、多くのポケモン達を苦しめていた。
勿論、研究所も例外なく影響を受けている訳で…。



買い物から帰ってきたフシギダネは、はぁ、と溜め息を吐いた。

「取り敢えず、ヒノアラシとワニノコとヘイガニ、それからキングラーはもう大丈夫だろうが…。」
「ああ、1回掛かったからな。後、明日にはベイリーフとヨルノズクが復活しそうだ。」
「…ようやくきちんとした戦力(※看病する人)が確保できるな…。」
「そうだな。問題は…。」

オオスバメが言う。

「俺達と、ベトベトン、ジュカインだ。特にフシギダネ、お前が倒れたら戦況は圧倒的に不利になる(※人手不足になる)ぞ。」
「ああ。気を付ける。…お前も、根性だの何のと言って無茶するんじゃないぞ?気温の変化に弱いんだから…。」
「分かってる。」

フシギダネは苦笑して、「絶対分かってないだろ…」と呟いたが、既にオオスバメは慌ただしくその場を去っていた。







「…ほら、氷枕。」
「…あぁ…サンキュ…。」

ジュカインは、いつになくぐったりとしたオニゴーリの頭の下に、氷枕を滑り込ませた。
素直に頭を浮かせながら、オニゴーリは溜め息を吐く。
そして、口を尖らせて言った。

「あーあ、お前より先に掛かるなんて、心外だぜ…。」
「おいコラどういう意味だ。…まぁ、確かに俺は冬には弱いが…。」

少々失礼な言葉に苦笑しながらも、ジュカインは答える。

「型が型だからな。仕方無いだろ。」
「ちぇー…。」


ポケモンのインフルエンザには、人間のそれと同じように幾つもの型がある。
殆どの型は、どのタイプに掛かりやすくどのタイプに掛かりにくいかで決まっている。
そして、今年のポケモンインフルエンザは、『水タイプに掛かりやすく草タイプに掛かりにくい』型だったのだ。


「大人しく寝ていろ。今、水分を取ってきてやる。」

くれぐれも妙な仕掛けをしたりしないように、と付け足して、ジュカインは後ろ手にドアを閉めた。



***



(…寒いな…。)

廊下を小走りに移動しつつ、ジュカインは思った。
マサラの気候が故郷と極端に違わないのが救いだが、何せ冬はあまり活動しない種族である。
思わず、あまり動きたくないと感じてしまうのだ。
しかし、寒い中動き回り、この季節をじっくり感じるというのは彼にとっては新鮮で、あまり嫌だとは思っていない。

…尤も、今は季節を感じている暇等無いのだが。



「あ、ジュカイン。」
「何だ?」

コップに飲み物を注いでいたジュカインに、オオスバメが声を掛けた。

「カビゴンとコータスにも、水分を頼む。」
「分かった。…あ、そっちの方向に行くなら、ドンファン達の部屋も見てくれ。暖房のせいで乾燥しているかも知れん。」
「ああ。」

オオスバメは頷くと、早足に去っていった。
彼も元よりそのつもりだったのだ。
一方ジュカインも、盆に3つのコップを乗せて、台所を後にした。


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