小説
□面影
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意識が、ふっと浮上した。
(……夢…か………。)
昔の夢を見た。
銀河戦士団が大敗を喫する少し前の夢だ。
戦いが激化し、仲間が一人、また一人と倒れていく。
敗北の予感が心に暗い影を落とす。
強い意志と絶対的な覚悟は確かにあったけれど…もしも。
もしも、平和な時代で大切なもの達と共に生きれたならと。
そう願わずにはいられなかった。
――そんな頃の、遠い記憶。
(…いけない。)
心が乱れてしまっているのが自分でも分かる。
暫く気持ちが落ち着くのを待って、それからいつもの様に身支度を始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「…***…。」
そっ、と。
頬の辺りに触れると、【彼女】がふわりと表情を和らげたのが分かった。
私の手に、【彼女】のそれが重ねられる。
「…――――、…。」
名を囁かれて、思わず目を細めた。
手を一度やんわりとほどき、そしてしっかりと握り直す。
同時に切なさが込み上げてきて、衝動に逆らわずに【彼女】に額を擦り寄せた。
(…できる事ならば…。)
失いたくは無い。
この温もりを感じていたい。
しかし、その願いが叶わぬ覚悟もできている。
もしかすると、もう二度と―――
〜〜〜〜〜〜〜〜
「卿、どうかなさったのですか?」
ブレイドナイトが食事の手を一旦休めて、メタナイトに尋ねた。
聞かれたメタナイトは、一瞬きょとんとする。
「…何がだ?」
「いえ、気のせいかもしれないのですが…その、卿が何か考え込んでいらっしゃるように感じたので…。」
「ふむ…そうだな、昨晩は少し夢見が良く無かったから、そのせいだろう。案ずる事は無い。」
「そうでしたか…。出過ぎた事を申しました。」
ブレイドナイトはそう答えると、それ以上の詮索はせずに食事へと戻った。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「ソード。」
朝食後、いつものように腹ごなしを兼ねて城内の見回りをしていると、隣を歩いていたブレイドが不意に口を開いた。
「先程の卿のご様子…矢張り、少しおかしくなかったか?」
「あぁ、俺もそう思っていた。…卿は自覚されていなかったようだがな。」
「そうだな…。」
ふぅ、とブレイドが息を吐く。
ご主人―メタナイト卿には、かれこれ数百年仕えてきた。
俺もブレイドも、卿の変化には、ちょっとした事でも気付けるようになった…と、思っている(それは卿も然りなのだけど)。
他の人から見れば普段と変わりないように見えるかもしれないが、俺達にしてみれば卿が何か考え込んでいらっしゃる事は一目瞭然だ。
恐らく、ご自身で仰っていた通り、夢が原因なのだろう。
数百年前の――銀河大戦中の夢でもご覧になったのだろうか。
「…もう少し、お話ししてくださっても良いのにな。」
ブレイドが、ぽつりとそう漏らした。
「卿は、何でも1人で抱え込み過ぎだよ…。そう思わないか、ソード?」
「確かにそうかもしれないが…でも、ご主人にもあまり話したくない事はあるだろう?」
「それは…まぁ…そうだろうが…。」
納得の行かない様子で、ブレイドがむぅと唸る。
「それに、例え卿が何か話してくださったとして…俺達には、黙ってあの方の傍に居る事位しかできないじゃないか。」
「…分かってるよ。」
それ切り、会話は途切れた。
漏れた溜め息は、果たしてどちらのものだったか。