小説

□面影
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不意に、仮面を押し上げられた。
見ると、【彼女】も自ら仮面を外している。

「っ…***、あまり…。」

防具を身体から離す事に対して思わず制止の言葉を口走ると、【彼女】は、お前は用心深いな、と苦笑した。
それから、ふと真剣な面持ちになる。

「私には、お前に何かを言う事などできない。でも、これからどうなってしまうか分からないからこそ、言っておく。…もし…。」

【彼女】はそこで、一旦言葉を区切った。
何かを躊躇っているように感じて、私は先を促す。
すると、【彼女】はゆっくりと顔を上げた。


「もし私だけが帰って来なくても…嘆かないでくれ。お前には守るべき大切なものが、他にも沢山ある筈だ。…どうか、立ち止まらないでくれ。」

【彼女】の願いが、覚悟が、表情や言葉の一つ一つから滲み出ていた。
最後になるかもしれないその言葉に、頷く事以外何ができようか。



―それはこちらの言う言葉でもあるだろうに。

―私なら大丈夫だ。


そう返すと、目の前の瞳が哀しそうに微笑んだ。
そして、呟く。


「…私達の意志は、必ずや未来へ受け継がれる…否、受け継がせなくてはならない。例え命と引き換えにしてでも…。」



それは私に向けての言葉だったかもしれないし、また、【彼女】自身に言い聞かせているようにも聞こえた。





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ぽぉん。

城内を見回っているメタナイトの目の前に、1個のボールが転がってきた。
それが飛んできた方向に目を向けると、サッカーをしていたのだろう、見慣れた子供達が手を振っていた。

「メタナイト卿ー!そのボール取ってくれよー!」

ブンが、カービィを従えて中庭から彼の方へと走って来る。

「ごめんごめん、カービィが変な方向に蹴飛ばしちゃってさ。」
「ぽよ〜。」

「…っ。」


一瞬、カービィの姿が夢の中の【彼女】の姿と重なり、メタナイトは思わず息を飲んだ。
だが、あくまでも動揺は表に出さずに、何事も無いかのように彼にボールを手渡す。

「そうか。人には当たらないように気を付けなさい。」
「ぽよ!」
「うん、分かってる!行くぞ、カービィ。」

ボールを受け取って、楽しそうに駆けて行く子供達を見送ると、メタナイトは黙って踵を返した。








―――嗚呼、私は上手く隠せていただろうか。


―――其方を失う痛みを。

―――隠せて、いただろうか。








「……………。」

メタナイトは自室に戻ると、ふ、と息を吐いた。
夢を見たとは言え、自分の中での【彼女】の存在が未だこんなにも大きかったのだという事実に、彼は驚き、そして戸惑っていた。

会いたいという気持ちを自覚していない訳では無かった。
割り切れているとも思ってはいない。
だが、彼を――カービィを、【彼女】に重ね合わせてしまうなど。


(…愚かな。)

生きているかも分からないのに。
増してや再び会える確率などゼロに等しいのに。

もう一度会いたい、だなんて、




「…***…。」


紡がれた名前は、部屋の空気に溶けて、消えた。



(end)


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