冬獅郎が…戻らないの

姐さん。日番谷烈から携帯に電話が来たのは8時過ぎ。

学校は?
携帯は通じないのですか?
友達に連絡は?

一通り試したのだろう。

学校からは出たと、先生が仰ってました。
携帯は呼び出しはするのですが…すぐに留守番電話になって。
あの子は…友達が少ないですから。わたくしが知っているのは、黒崎一護君くらいで。


それで、黒崎は何と?

他の友達に聞いてくれたのですが…皆さん知らないみたいで。

打てる手は打ったのだろう。聡明な彼女の事だ。組の者を煩わせる前に自分が出来る事をしないハスがなかった。
万策尽きた…のね。

彼は、烈の一存だけでどうこう出来る子ではない。将来組の、日番谷の大門を背負はねばならない存在…組の宝なのだ。

だから、あらゆる危険性を考えて組の若頭である京楽に頼ったのだろう。

心配ないですよぅ。坊っちゃんも年頃ですからね。彼女の一人や二人とデートでもして、ついうっかり。な〜んてトコですよ。

…なら良いのですが。
大丈夫ですよ〜

……心配させたくない一心で、いつもの軽薄口調で言ったは良いが、母親の烈が分からぬのだから京楽はお手上げも良い所だ。
とりあえず、冬獅郎の学校から近い傘下の更木組の斑目に連絡して、彼の人脈に頼る事にしたのだが。

冬獅郎は元々、絵に書いたようなまっとうな少年で。眉目秀麗。成績優秀。スポーツ万能。ただちょっと違うのは、彼の実家が極道という因果な事を生業としているだけで。
ただそれだけで、組を継いでいない冬獅郎はまだカタギなのだが。
それを理解してくれる友達も少ない。
黒崎一護は、そんな数少ない友達の一人だ。
冬獅郎は何時もグッと奥歯を噛み締めて、誰にも不平不満を漏らした事はない。
心配させるからと、後ろ指指されても休む事なく学校に行き、心配させなくないと定時に帰宅する。それが叶わぬ場合、必ず連絡を寄越した。

彼に限って、連絡も寄越さずに遊び呆けてる事など有り得ないのだ。

何かあったと…考えるべきだねぇ。

更木の人間だけでは埒があかないか…
他の傘下も動かすか…
プルルル…
思案にくれる中。待望の斑目から電話が入った。

「わたしだ」
「京楽さん!すんません!」
「どうしたんだい?」
「冬獅郎さん…松本が保護してるみたいです」
「乱菊ちゃんが?」

驚きを隠せない。
松本乱菊は組お抱えの医者だ。刀傷やピストルの玉傷。普通の医者に行けない場合に彼女に見てもらっているのだが。
カタギの坊っちゃんと乱菊ちゃん…ねぇ?

「なんでも、冬獅郎さんが高熱出して倒れてたとかで。すんません!悪気はないんです。まったく世話になってる組の坊っちゃんの顔もうろ覚えなんて」

乱菊の養護に必死な斑目。
可愛いいねぇ。
しかし、

「斑目。勘違いしちゃいけねぇ。彼女の世話をしてるんじゃないよ。組が彼女の世話になってるのさ」
義理が通らねば、ただの鼻摘みの嫌われ者だ。
「すんません」
日番谷の阿修羅と恐れられる京楽だが、昔気質の義理を通し通す…そんな彼を慕う者は多い。だから日番谷は今も一枚岩で踏ん張っているのだろう。
「あっ」
「どうしたんすか?」「七緒ちゃんに〜定時連絡しないとぅ〜」
これさえなければ…

斑目は咳払いをして、話を続ける。

「熱が高いらしいので、今晩は松本が預かるそうです。姐さんにお伝え下さい」
「分かったよぅ〜まったく心配させて、冬獅郎君にはお仕置きが必死だね」
「…お仕置き…ですか?」
「浮竹がねぇ。冬獅郎君に食べさせたいってねぇ。ケーキを作って来たのさ」
幹部の浮竹十四郎の十八番はケーキ作りだ。力作の手作りケーキを可愛いい坊っちゃんに食べさせたくて仕方ないのだ。
しかし、冬獅郎は大の甘いもの嫌い。それをいつも冬獅郎が食べた事にしてこっそり京楽や烈が片付けているのだが。
「食べてもらおうかねぇ。体力回復には糖分だよ」
電話の向こうで斑目の笑い声が上がる。
「そりゃ名案っすね」
組の宝は
皆に愛されてるよ。

やちるさん。

京楽は、今は亡き友に語り掛けた。

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