虎鉄勇音はうろうろと、落ち着きなく電話の周りを移動しては、1コールで飛び付き、相手を驚かせていた。
しかし、勧誘やセールスの下らない電話ばかりでイライラは最高潮に達している。

まったく、日番谷のお屋敷だと分かって下らない電話をして来るのかしら?短期な組員なら海に沈むわよ!

かなり物騒な事を考えて、乱暴に受話器を置く。

「はぁー」

冬獅郎は深窓の令嬢ではなく、歴とした男の子だ。小さい頃から護身術を習い、日本一にもなった事のある母親の烈が、剣道を教えたり一応黒帯の自分が空手を教えたりして、腕っぷしもかなりのものだが。
ちろりと時計を見る。普通の家庭の男の子なら、さほど心配する時間でもない。
が、
自分の仕える日番谷の坊っちゃんは、かなり有名な極道一家総長の息子で、唯一の跡取りだ。数年前に父親のやちるが他界しており、今は、母親の烈や若頭の京楽が後見人として日々何事もないようにと気を配っていたのだが。

坊っちゃんが、連絡も寄越さずに遊び歩くハズかない。勇音は心配で胸が潰れそうだった。
姐さんは、
心配ないですよ。
と、気丈に言うけれど、握りしめた手がフルフルと震えていたのを痛々しく見守る
事しか出来なかった。

トルルルル

「はい!日番谷です!」
「おぉぅ!早いねぇ。1コールだねぇ」
受話器からは京楽ののんびりした声が聞こえた。
「京楽さん!何をのんきに!」
「姐さんは?」
「心当たりを探してくれている黒崎さんと電話してます」
「…そうかい。では、勇音ちゃん。姐さんに冬獅郎君が見付かったと、言っておいてくれ」
「…え?」
「無事だよ。詳しくはそちらで直接、姐さんに説明させてもらうよ」
ちょっとした覚悟はしていたのだが、京楽の落ち着き様だと五体無事なのだろう。
では、なぜ?
あの聡明な坊っちゃんが、連絡をくれないのか?遅い反抗期とか?急に親子が心配になり京楽に意見を求めた。
「はははは」
京楽は愉快そうに笑う。
「何で、笑うんですか〜」
「ああ、ごめんごめん。冬獅郎君はそんな子供じゃないよ。そんなに器用に甘える事が出来たら…どんなに良かったかな」
「京楽さん…」
「あの二人は親子以上に親子だよ。この世界は血の繋がりより濃いものがある。分かるね?」
「…はい」
烈の実家も有力な極道一家だ。幼い頃から烈に付き従っていた勇音には、京楽の言わんとしている事が理解できた。
血より杯を重んじて、絆を重視する独特の風潮があった。
「姐さんは誰よりも冬獅郎君の母親だよ。あの二人の絆は本物以上さ。周りが心配する必要はないよ」
京楽の心地好い声に張りつめた緊張がとける。へたり込みそうになるのを必死にこらえて、会話を終わらせると、烈に知らせるために彼女の私室に走った。
そうだわ!
お二人の絆はあたしが一番近くで見ているのに!
あたしは何て、早とちりなんだろう。

姐さんに知らせないと!
早く
早く!!

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