買い物から帰った乱菊は、フラつく冬獅郎を玄関先で抱き締めた。
「ちょっ!冬獅郎君?」
「帰る」
「帰るって!」

抱き締めた体が熱い。投与した解熱剤の効き目が切れたみたいだ。長時間雨に濡れて気を失っていたのだ。若く体力があるとはいえ、昨日の今日で完治するハズがない。

「これ以上母さんに心配させられねえ」

まあ〜こんなフラフラな未成年放り出して、あたしが心配しないと思うのかしら?
そこで、あたしはニッコリ笑って彼の翠の瞳を覗き込んだ。

「医者として、許可できないわね。自力でベッドに戻るか、鎮静剤打たれてあたしに抱っこされて戻るか?好きな方を選んで」
「なっ!鎮静剤!?」
「なんでもあるわよ〜熊みたいな大男がさ、怪我で暴れまくって治療がスムーズにいかない時には便利よ」
「…………」
「夜には、京楽さんが迎えに来てくれるわ。学校には、お母様が連絡してくれたから。大丈夫よ」
柔らかい銀髪に指を絡め、撫でてあげると、冬獅郎君は眉間に皺を寄せて頭を引いた。

新鮮な反応が可愛いい!この子でもう少し遊べるわね〜と、不謹慎な事を思った。
人生、潤いは必要だわ!
冬獅郎君は諦めたのか、フラつきながらもベッドに戻った。
ベッドはきちんと整えられていて、彼の律儀な性格を物語っていた。
「…制服」
「え?」
「クリーニングに出してくれたのか?すまねえ」
制服は昨日の雨や泥で大変な状態だったから近くのクリーニングに無理を言って頼んで、シャツに至っては血液が落ちそうにないから処分した。
一角に言ってクリーニング済の制服と、新しい学校指定のシャツを更木の若い子に届けさせたのだが、こんな無茶をするなんて。
隠して買い物行けば良かったわ。
「とりあえず、シワになるからこれに着替えて下さい」
買ってきたばかりの青のストライプのパジャマを差し出す。
「………楽しそうだな…お前」
「あら?わかりました〜」

上機嫌で冬獅郎君から制服を剥ぎ取る。
「おい!ガキじゃねえから1人で着れる」
「え〜」
「え〜…じゃ、ねえ」後退りする腕から制服を受け取り、ハンガーに掛ける。

「…疲れる」
「そうですか?」
「……もういい」
ベッドに入りかける彼を捕まえる。
「?」
「待って下さいね。お熱を測らせて
翠の瞳を覗き込み、怪訝そうな表情を浮か
べる彼の額に自分の額を押し当てる。
まつ毛とまつ毛がふれ合い、お互いの吐息が絡む距離まで密着する。
瞬間、彼が真っ赤になるのを愛しく思いながら。放れる。
「なっ!」
冬獅郎は凄い勢いで、離れた。
「あら?子供の頃お母様にやってもらった事ない?」
「俺はガキじゃねえ!」
ベッドに潜り込んで布団をかぶってしまった。
あらあら?
からかいすぎたかしらね?

「解熱剤、もう一回投与させて下さいね。夜までには下がるとおもいますから」
「悪い」
「…問題は」
顔を出した冬獅郎の薄い唇に指を伸ばす。
「痛っ」
切れて紫になっている。腫れてないだけマシだろうか?体のあちらこちらにもうっ血の痕がある。
「何があったか、正直に言うのよ。無駄に隠せばますます心配させるだけだから」
「…ああ」
揺れる瞳を見ながら、冬獅郎君は切ないぐらい周りに気を使いすぎる子供だ…と、思った。
京楽や浮竹がメロメロなのも分かる気がした。周りが大事にしないと冬獅郎君は自分なんて二の次なんだね。
彼の性格なのかもしれないが、少しは自覚してもらわないと…

「報われないわね」

「え?」

「なんでもないわ。薬準備して来るわね」

銀髪をくしゃりとかき混ぜ
部屋を後にした。





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