「……はぁ」
応接間のソファーにどっかりと座り込む一角を見ると、溜め息しか出てこない。
「なんだよ」
「その格好…趣味悪すぎ」
「ほっとけ!」
有り得ない色のスーツに紫のシャツ。立派な下っぱチンピラファッションだ。
彼の名誉のために訂正しておくが、彼は本家の日番谷にも顔の利く幹部だ。
「だよね!この色、美しくないよね。僕みたいに白で決めないと」
隣に行儀良く座っていた綾瀬川弓親が、我が意を得たとばかりに鼻息も荒く言うが。
「あんたはホストにしか見えないわ」
乱菊にバッサリ切られて沈黙した。
一角が腹を抱えて笑い出す。
まったく、騒々しい二人だ。
「弓親はともかく、あんたは顔自体か凶器なんだから」
「どういう意味だ?」
「そのまんまの意味だけど?バッチ付けてただけで、しょっぴかれる世の中よ?そのハゲ頭と凶悪な顔と、その成りじゃバッチ付けてなくても手が回るわ」
「ハゲじゃねぇ」
弓親は完全に傍観を決めた様だ、優雅な手付きでカップを口許に運び紅茶の香りを楽しんで居る。
「随分と楽しそうだな」
ギャーギャーと騒がしいBGMを黙らせたのは、薬で眠っているハズの冬獅郎だった。
体調が悪いとは思えない凛とした声は良く通り、二人を黙らせるだけの迫力があった。
「坊っちゃん」
一角が動きかけるのを片手で征して、ドッサリと乱菊の隣に座る。翠の瞳は高熱で潤み目を反らしがたい艶があった。
「ごめんなさいね。にぎやかか訪問客で」
「……おい、松本」
「何よ」
「お前…冬獅郎さんの顔の傷……何で言わなかった?」
一角が声を低める。空気変わる。普通の女なら泣き出す迫力も松本には大した事はなかった。
「あら?この年頃の男の子なら、喧嘩なんて茶飯事よ?」
「バカ野郎!俺は京楽さんに報告の義務があんだよ!」
「仕方ないじゃない。昨日の時点では冬獅郎君意識朦朧だし、隅々までチェックしたけど」
「おい!」
「誤解を招く言い方するな!」
突っ込みを入れる二人を愉快そうに見つめる乱菊は、底意地が悪い…と、傍観しながら弓親は思った。
「あたしも医者の端くれよ〜冬獅郎君が強いのかもしれないけれど、傷は全て急所は外れていたわ。プロならまどろっこしい事はしないでしょ?」
「…冬獅郎さん」
「悪い斑目。心配かけたな。松本の言う通りだよ。つるまなきゃ何も出来ないただのガキ……だったよ」
体調が悪くなければ、こんな醜態は晒さない。
ただ、
最近…こんな事が多すぎる。自分は目立たない人間だとは思わない。派手な成りに家庭の事情。俺の背景を知ってる者ならば、やすやすと喧嘩など売らないだろう。
ふっと、視線を上げると、蒼の瞳とかち合う。全てを見透かす様な色に日番谷は瞠目した。

「お!」
「…何よ」

一角が思い出した様に足元の大きな袋から箱を取り出す。

「きゃー!もしかして
「冬獅郎さんにって、今朝、浮竹さんのトコの若い者が届けてくれたんだ」
「浮竹さんのケーキは天下一品よね
小娘みたいにはしゃぎ出した乱菊を見て、こんな所までお裾分けしているのか?と呆れる。
「今、お茶入れるわね」
「…いや、俺は」
「遠慮はいらねえっすよ?」
一角が意地悪く笑う。
「そうよ〜せっかく浮竹さん冬獅郎君に作ってくれたんだし」
「そうそう」
「それに、体調悪い時は糖分よ?」
「…………」
医者らしからぬ事を宣言して、乱菊はお茶を入れにウキウキと出て行った。






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