新小説軍

□紅き蒼空
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黒煙、白煙…濛々とそれらが空覆う中
突如として何かが彼等の近くで弾けた。
一体何が爆発したのか、はたまた爆撃を受けたのかわからなかった。
ただ、三時の方角から勢いよく此方を吹き飛ばそうとする爆風に踏ん張る。

「カンベエ様。」
「…退くぞ、シチ。」

此処はもう駄目だ。

戦線の崩壊を感じてシチロージは前に居る主へ声をかける。
その主、カンベエも此処はこれ以上居ても人の数を削られるだけ、と判断したのか静かに撤退を言葉にした。



また、負け戦。



戦線からの離脱中。
愛機の斬艦刀からみた空の紅さに暫くの間シチロージは、目が離せなくなる。
空を長く見続ける彼に気付き、カンベエは声をかけた。

「どうした。」
「あ、いえ……」

自分が呆けていた事に今気付いたのか、シチロージは少し狼狽えて、見繕うように微笑する。
困ったようにもとれる表情は紅い空に照らされた。

「空とは…このように紅いものか、と…不意に考え込んでしまいました。」
「紅…か。」

言われてカンベエが目を滑らせてみれば確かに、シチロージが言うように随分と空が紅いような気がした。
まるで血の色、と例えるは陳腐な事かもしれなかったが二人が共通して思った事は其れであった。

「私は、この空をこうして駆けているというのにまるで空の色を思い出せないのです。」

[蒼空]とも書く筈の其処。だが、自分が思い出せる[空]には[蒼]が少ない。
気付けば灰色や黒、紅、赤…。

「戦場とは最も空に近いというのに…。」
「確かに。」

カンベエが薄く笑った気がしたが日の角度でそれは見えない。

ただ、この[空]に[蒼]ばかりが見える時が来るとすれば…それは自分が主の傍に隣に居る必要がなくなる時かもしれぬ。とシチロージは思った。

いずれは来るであろうその時が過ぎても自分はこの方の傍らに在るだろうか?

紅い蒼空はまだ続く。
先を考えすぎても何も生まれないと
シチロージは操縦桿を握り直した。





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