short story

□陣風ミニマム
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「あれ・・・?」

  用意された朝食に箸を伸ばしていた(てつ)は、自身にしか聞き取れないような声で1人ごちた。珍しく朝食に並ぶ目玉焼きが焦げている。しかもちょっとではなく、重症の。

  その玉子の成れの果を、箸の先でつっつけば「郁」と背中を向けている弟に声をかけた。

「・・・・・何?」

  さきほどのからかいが元凶なのか、イラつきを示すような低い音がその口から紡がれた。

「これ、焦げてね・・・」

「あ?」

  だが、郁にしてみればその意見は癇に障った。さっきまで寝ていた奴に文句を言われる筋合いなどないはずだとでもいうように。そして、手にしていた包丁を徹の喉元に突きつける。

「文句あんならテメェで作れ・・・。失敗したんだよ」

「郁ちゃんストップ、殺さないで」

  そう両手を挙げるようにして、徹が請う。所詮これとていつもの馴れ合いに等しいのだが、場合が場合だ。たとえ兄であっても、弟に包丁の切っ先を向けられれば怯んでおくほかない。

  しかもその切っ先に血がついていればなおさらだ。

「ありがたくいただきます・・・。つか郁、頼むからそれ外でやるなよ」

  そう宥めるように徹は言葉を零したが、郁はそれに対して睨みつけるだけ。

「だったら俺にそうさせることしなければいいだろ?」

  郁にしてみれば、この包丁を突き付けるといった行為の大元の原因は兄である徹にある。だから「するな」と言うならば、まずは元凶の行動を改めろとのこと。

  そもそも、何度言っても徹はそれを改めようとはしてくれないのだ。寝起きが悪いなら悪いでそれは構わない。それこそ昨日今日で直せる代物でもありはしない。ただそれを何度起こしても起きないだとか、布団ひっぺがえしてもなお寝てるとかに留めて欲しかったのが、郁の正直なところである。


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